国際政治の力学がどう個人に影響するか

 2人が出会ったのは約20年前、アメリカの大手ケーブルテレビ局「HBO」のラテンアメリカ部門だった。当時は異なる部署で働いていたが、「いつか一緒に仕事をすることになるかもしれない」と感じていたという。

 のちにロハスがベネズエラからバルセロナに移住したとき、すでに現地で働いていたのがバスケスだった。監督・編集者として働いていたロハスと、撮影監督としての経験豊富なバスケスは意気投合し、互いのスキルを融合させて創作のパートナーとなったのだ。

ロハス監督(左)とバスケス監督

 初めての長編映画ながら、製作プロセスは最初からスムーズだったという。コロナ禍だったこともあり、脚本はGoogleドライブ上で2人が同時に執筆。アイデアを互いに出し合い、登場人物のセリフをその場で演じながら、よりリアルで心に刺さるストーリーを追求した。意見はほとんど対立せず、常に同じイメージを共有できていたそうだ。

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『入国審査』 ©2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE

 主人公のディエゴ&エレナは事実婚のカップルで、ディエゴは監督2人と同じベネズエラ出身、エレナはスペイン・バルセロナ出身という設定。「これ以外の設定はありえなかった」と2人は声を揃える。それぞれの背景や過去、与えられた権利が異なるために、入国審査で受けるストレスにも違いを出せることが決め手だったという。

バスケス 最初はベネズエラ人同士のカップルという設定でしたが、あるとき、エレナをヨーロッパ出身の設定にすれば、我々の日常的な経験を彼女が目撃するかたちで物語を描けると思いました。ある土地で生まれ、グレーな過去があるだけで疑われる——本当にばかげた話ですが、それが国境警備官の発想です。「私は大丈夫」と思っていた彼女も、やがてその影響に直面する。国際政治の力学が個人に与える影響を表現するうえで、これ以上のやり方はありませんでした。