アメリカン・ドリームではなくアメリカン・ナイトメア

 スペインでは「パレハ・デ・エチョ」といい、事実婚(内縁関係)が公に認められている。だからこそディエゴ&エレナは自分たちの関係を疑問に思っていないが、そのことが審査官の疑念をかきたてるのだ。この設定にはバスケスの実体験が反映されている。

『入国審査』 ©2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE

バスケス 僕とスペイン人のパートナーは正式に結婚していません。すると、僕が南米出身というだけで、いつも「権利のために一緒にいるのか、書類に必要だからか」と聞かれます。しかし、ある土地で理想の生活を送るために書類が必要なとき、愛する人がその問題を解決してくれることに何の問題があるのでしょうか? 2人の関係に書類が関わることは、互いを愛していないことにはまったくなりません。それでも僕たちは関係に疑問を持たれ、説明しろと迫られる。それが日常であり、現実なのです。

 ディエゴがベネズエラ出身であることには、もちろん監督2人の思い入れがある。かつてラテンアメリカを植民地としていたスペインでは現在も差別が根強く残っており、南米出身者はひどい扱いを受けることがあるそうだ。ディエゴもそれゆえに自分が期待した結果を得られず、アメリカン・ドリームに賭けることになる。

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フアン・セバスチャン・バスケス監督

バスケス 故郷や居場所、権利を失った人々はまともな生活を求めて移動します。多くのベネズエラ人が、さまざまな国に移住し、けれどもうまくいかず、2度や3度、4度目の移住を余儀なくされています。我々ベネズエラ人はメディアなどを通じて、アメリカン・ドリームを信じ込まされてきました。アメリカが移住先として選ばれやすいのは、「アメリカにはチャンスがある、きっとうまくいく」という刷り込みがあるせいです。

ロハス しかし、それらはアメリカン・ドリームではなくアメリカン・ナイトメア(悪夢)でした。2025年の今、人々がそのことにようやく気づきはじめたのです。僕たちや家族、友人が税関で経験したことは、実際はトランプ政権よりも以前から続いていました。アメリカの移民政策はずっと昔からひどいものだった。

アレハンドロ・ロハス監督

バスケス もちろん、トランプを擁護しているわけではないですよ(笑)。

ロハス その通りです。トランプの登場後、以前は隠蔽されていたものが、もはや隠すことさえされなくなった。映画の冒頭にトランプの名前を出したのは、そのことを明確に示しておくためです。