通商協議の膠着

 一方で、中国もロンドンでの交渉結果に不満を募らせています。中国が求めた「米国による半導体関連輸出規制の緩和」を米国側が拒否しました。これは、スマートフォンやAIモデルの訓練に使用される高性能データセンター向けの先端チップの対中流出を防ぐ規制です。

 近ごろ中国の国営メディアでは、「レアアースの規制は報復ではなく米国のチップ規制を撤廃させるための交渉カードだ」とする報道が目立っています。しかしロンドンで米国はチップ輸出規制を一切緩めませんでした。ラトニック商務長官は、6月11日のCNBCのインタビューで、ベッセント財務長官とともに、中国の「先端チップ輸出規制の緩和要求」を拒否したと明言しています。

「中国は、我々の輸出規制を撤廃したがっている。交渉中、私が最も気に入ったベッセントの一言がある。彼はこう言った――『規制を撤廃してほしい? いいでしょう。その代わり、あなた方の極超音速ミサイルを何発かいただけますか?』とね」

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画像はイメージです ©PantherMedia/イメージマート

 このような通商協議の膠着は、半導体からソフトウェア、ドローンに至るまで、米中間の「テクノロジー・デカップリング(技術分離)」を一層加速させる道を開いたといえるでしょう。影響は、今後世界全体に波及していくと見られます。

※マット・ポッティンジャー氏の連載記事全文(4000字)は、「文藝春秋」8月号及び、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています。全文では、以下の内容が語られています。
・強硬派のラトニック
・カギを握る台湾

出典元

文藝春秋

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