第1次トランプ政権の国家安全保障担当の大統領副補佐官だったマット・ポッティンジャー氏が文藝春秋の連載「投資家のためのディープな地経学」で、暗礁に乗り上げている米中関係を考察した。その一部を紹介します。(近藤奈香訳)

◆◆◆

トランプは「良好」と米中関係を述べるも…

 米国のドナルド・トランプ大統領が期待していた6月の「中国との画期的な通商合意」は結果的に大きく裏切られる形となりました。

 トランプ氏は、ロンドンで行われた米中交渉を受けて、中国が磁石やレアアース(希土類元素)の輸出を自由化したと主張。米国製品に対して中国が市場を大幅に開放することにも期待を寄せていました。6月11日には自身のSNSで「我々と中国とのディールはすでに成立している。あとは習主席と私の最終承認だけだ。必要な磁石やレアアースは、中国が事前に供給する。関係は極めて良好だ!」と投稿しています。

ADVERTISEMENT

ポッティンジャー氏 ©文藝春秋

 現実はそうした楽観的な見方とはかけ離れたものでした。ロンドンでの交渉を経て中国はむしろ、磁石やレアアースにおける世界的な供給の主導権を背景に、米国や他の先進国の製造業に対して供給制限をちらつかせる姿勢を明確にしています。

 米国側は、交渉の成果として「今後6か月間、中国が自動車業界などへのレアアース供給を再開する」と発表しましたが、実際には多くの自動車メーカーが中国からの輸出ライセンス取得に苦戦しています。ライセンス発給の条件として、中国側が詳細な設計図や機密技術の提供を求めているという指摘もある。中国はレアアースを多く使用する防衛関連企業に対しては、いまだ明確な輸出許可を出していません。つまり、北京はとりわけ防衛産業に対し、レアアースの輸出許可を意図的に遅らせることで圧力をかけているのです。

 中国商務部の報道官も、6月7日に次のように述べています。

「レアアース関連品目は軍民両用の性質を持っており、輸出規制は国際的な慣行に基づいている」