岩手県出身の双子の兄弟、松田文登・崇弥両氏が2018年に設立したヘラルボニーは、国内外の障害のある約240人の「異彩を放つ作家」とライセンス契約を締結、2000点以上の作品をデータ化している。提携企業にはJAL、丸井グループ、JR東日本など、錚々たる名前が並ぶ。

7月からは、ヘラルボニーの財務戦略顧問に金融・財務畑で活躍してきた星直人氏が就任。今注目を集めるヘラルボニーの経営陣が、経営学者・楠木建に起業秘話を語った。

◆◆◆

ヘラルボニーの意味は?

 楠木 もともとお二人のお兄さんが、重度の知的障害を伴う自閉症を抱えていらっしゃったことが、起業の背景にあったんですよね。

 文登 4つ上の兄・翔太とは3人でよく遊んでいました。母に連れられて福祉団体のレクリエーションに参加したりもしていた。ヘラルボニーという企業名も、兄がノートに繰り返し書いていた言葉です。

ADVERTISEMENT

障害のある人の作品をデザインに起用したネクタイが人気商品に(ヘラルボニー提供)

  特に意味はないんですよね?

 崇弥 そうなんです。私が東北芸術工科大学の卒業制作の時に見つけたのですが、兄に意味を聞いても「わかんない!」と(笑)。

 大学卒業後はゼミの担当教授の小山薫堂さんの会社で働いていたのですが、2015年の夏、母と2人で訪れた岩手県花巻市の「るんびにい美術館」で、障害のある作家のアート作品を見て驚いたんです。執拗なまでに同じ図形が描きつけられたキャンバス、びっしりと色とりどりに刺繍されたテキスタイル……見たことのない空間が、そこには広がっていました。

弟の松田崇弥氏がヘラルボニーの起業発案者 Ⓒ文藝春秋

 文登 よほど衝撃を受けたのか、崇弥から「めちゃくちゃ凄いものを見た!」と、電話がかかってきて。当時私はゼネコンにいましたが、あまりの熱量に驚きました(笑)。

 崇弥 もともと、兄を含め障害のある方たちが「欠落」と一括りにされることに違和感も持っていました。そこで、障害のある作家の作品が、支援という文脈ではなく、純粋なアートとして評価される見せ方ができないかと考えたんです。

JAL国際線のビジネスクラス機内アメニティのポーチ(写真/ヘラルボニー提供)

 そこで、るんびにい美術館の協力も得て、作品を起用したデザインネクタイを作ることを思いつきました。ただ、普通のプリント商品では、「障害のある人が作ったから安い」という概念は壊せない。そこでアートの質感まで再現できるシルク織り技術にこだわり、銀座田屋さんに最高品質のシルク織りのネクタイを作っていただきました。