ヤクザ社会は義理を重んじるとはいうものの、時には“裏技”を使って経費を節約することもある。

「規模にもよるだろうが、うちの組織だと100個以上のお中元が送られてくる。なかには普段の付き合いがなく、どこの組織の誰だか分からないようなところからも来ることもある。そういう時はお返しはしないし、包装紙を張り替えてあたかも自分たちが購入したように別の組織に送ってしまうこともある」

 キャリアが長い別の指定暴力団幹部はバブル景気の頃を懐かしみながら、当時ならではのエピソードを教えてくれた。

ADVERTISEMENT

「30年以上前の話だが、大手百貨店のギフト担当に送り先リストを渡しておいて、すべて手続きを任せていたこともある。品物はこちらで指定するが料金については“阿吽の呼吸”で、払ったり払わなかったり、ということが通用していた。今そんなことをすれば即座に警察に通報されてしまう」

写真はイメージ ©︎AFLO

「多くの幹部がいて大きい組織なのだ」という見栄も込められている?

 お中元と並ぶ夏の習慣である暑中見舞いも、「義理」としてヤクザの世界では重視されている。加えて前出の指定暴力団幹部は「見栄の効果もある」と話す。

「自分のところには全国から何百通と暑中見舞いが来る。個人が送る通常のハガキのほか、組織として出すものには組長をはじめ執行部の名前が何人も書き連ねられている書状スタイルのものもある。書状になっているのは『自分たちには多くの幹部がいて大きい組織なのだ』という見栄もあるのだろう。なかには組織を大きく見せるためなのか、組織外のカタギの名前が記載されているのもある」

指定暴力団の傘下組織が送った暑中見舞いにはずらりと幹部の名前が並んでいる

 実は警察当局も、夏になると暴力団業界でやりとりされた暑中見舞いを探し回るようになるという。

「書状の形になっているものは、組織のメンバー構成を把握する資料として価値がある。かつてはヤクザの事務所に捜査員が出入りする機会も多く、事務所内には組長など幹部から末端の組員まで名札が掲げられていることが多いので、組織の人間の名前はだいたいわかっていた。しかし近年は立ち入りを拒否する組織も多く、書状を入手することで幹部クラスを把握することが重要になっている」

 義理に見栄、そして節約……。ヤクザの世界でもお中元・暑中見舞いは大変だった。

次のページ 写真ページはこちら