レスリー・チャンが2人を象徴的につなぐ
もちろん、こうしたフォーマットを扱う手つきが単なるパロディ精神でないことは明らかだ。ティエンユーとアシャンを象徴的につなぐのは、2003年にこの世を去った香港の大スターであるレスリー・チャン――出演作で同性愛者を演じ、自らも性的少数者だと公言した――なのである。
冒頭ではティエンユーの両親が同じく2003年に死去したことが語られ、アシャンの部屋には『レスリー・チャン 嵐の青春』と『もういちど逢いたくて 星月童話』のポスターが張られている。劇中ではチャンが出演した『ブエノスアイレス』や、『恋する惑星』といったウォン・カーウァイ作品にもオマージュが捧げられた(ちなみにテレンス・ラウには、2021年の映画『アニタ』でチャン役を演じた縁もある)。
映画の前半を引っ張るのは、ティエンユー役のテレンス・ラウと、アシャン役を演じるフェンディ・ファンの演技だ。人生の岐路に立たされ、自殺をも考えるティエンユーの表情は硬いが、アシャンは生まれながらの孤独を抱えながらいつも笑顔を浮かべており、やがて交流のなかでティエンユーの表情もやわらいでゆく。両者の対比がときにコミカルに、ときにシリアスな形で互いの魅力を引き出した。
もうひとつの見どころが、都市から自然のなかへと移ろっていく舞台設定と美しいビジュアルだ。盗作疑惑のためバッシングを受けたティエンユーが暮らす香港の都市は寒色の映像だが、台北の街はもう少し温かみのある場所として撮られている(台北のシーンは短いが、大通りから路地裏へと展開するチェイスシーンは街の空気が出ていて楽しい)。
