生き残りをかけたサイド転向と石原からの後押しの言葉
そんな哲ちゃんだが、大胆な勝負に出た。「今のチームに左投手がいないというのはずっと言われていること。自分が生き残るには何かを変えなきゃいけない」。左打者に嫌がられる投手になろうと、これまでインステップしてみるなど、いろいろ試行錯誤していた。そんなタイミングで、佐々岡真司二軍投手コーチからひとつの提案があった。サイドスローへの転向だ。
すぐに「やろう」と決断したが、当然、不安がないわけではなかった。11月にサイド転向しても、2月のキャンプインまで時間はない。正直なところ、上投げでずっとやりたいという気持ちもあった。それでも、ベテラン捕手である石原慶幸からの後押しが彼を支えた。
「サイドの練習をしているとき、石原さんに『今は選手たちのレベルが上っているから、普通に投げて抑えられるような時代じゃない。だったら何か一つ特徴のあるフォームの方が良いと思うよ』と言ってもらい、踏ん切りがついた」
参考にしたのはソフトバンク・嘉弥真新也投手。彼も27歳でサイドに転向している。移動中など、暇があればYouTubeで動画を見て研究した。
ホークス打線相手に圧巻の5奪三振
今季、春季キャンプ中が始まってしばらくしても、……いや、それどころかオープン戦が始まってからも、哲ちゃんは一度も一軍から声がかかることはなかった。
やはり、最初の頃は思い描いた投球ができていなかったようだ。フォームが横回転に変わったことで、腰や左脇腹など、今まで経験したことのない痛みもあった。それでも、登板を重ねるにつれてサイドにも少しずつ慣れてきた。
二軍で安定した投球を見せるようになると、6月1日に満を持して一軍昇格が発表された。……と思いきや、これは次の先発を上げるまでのつなぎだった。登板機会はなく、翌2日に登録抹消されてしまう。「がんばって!」「ありがとう!」みたいなやりとりをして、ちょっと気まずい思いをした記憶がある。だが、チャンスはすぐに巡ってきた。
15日に再び一軍に上がると、同日のソフトバンク戦でいきなり出番が訪れた。僕は生放送の仕事前だったが、スマホの中継に釘付けだった。6回、7点ビハインドの展開。敗戦処理役ではあったが、彼にとってそんなことは関係ない。「『これでダメだったら仕方ない』と割り切って投げた」。左打者3人を三者凡退に斬ってとると、苦手としていた回またぎもこなし、2イニングを投げて5奪三振のパーフェクトピッチングだった。結局、チームは負けてしまったが、僕はめちゃくちゃ興奮していた(その勢いでこの原稿を書き上げた)。
その後も、まだまだ出番は少ないとはいえども、順調に一軍で結果を残し続けている。しかし、大事な場面で使われるのは右投手ばかり。哲ちゃんはこんなところで満足してはいない。
「(チームのリリーフ陣に)左が定着していないのは、右に勝てていないから。3年間、ずっと左で一番になろうと思ってダメだったから、今いる中継ぎの右投手に勝たなきゃいけない」。現在リーグ首位を走る広島だが、チーム防御率は4点台。先発も中継ぎも苦しんでいる。ここから後半戦、投手陣を立て直していく中で、哲ちゃんもその力の一部となってほしい。彼の決断が正解だったと思えるシーズンになりますように。
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