ふだんは5歳の子どもくらいピュアなんだけれど…

「奏介はただのアートが好きな少年ではなく、本能の赴くままに創作してしまう、彼の存在自体がアートのようなひと。とにかく芸術に対する思いが純粋なので、ふだんは5歳の子どもくらいピュアなんだけれど、いざ創作をはじめると芸術家然としたふるまいになるという二面性を表現したかったんです。そのために幼い子どもがいる友人や知人の家にお邪魔して、観察させてもらって。子ども特有の、自分の好きな遊びにだけ発揮する集中力や真剣なまなざしを参考にしました」

 

 ピュアで幼い奏介像は、横浜聡子監督がイメージする奏介とも近かったようで、現場ではむしろ「もっと幼く演じていい、もっと声や身振り手振りを大きくしてもいい」とアドバイスされた。そうしているうちにカメラが回っていないときも身振り手振りが大きくなり、気がつけば「完全に奏介になっていた」。あるシーンの撮影では、「自分ではまったく意図しなかった奏介が言いそうなせりふが自然と口からこぼれて、びっくりしてしまった」のだそう。

©︎2025 映画「海辺へ行く道」製作委員会

「そんなふうに自分の知らない自分を見られるから芝居が好きだし、これからもいろんな役柄に挑戦したいです。ちなみに、いま興味があるのはアクション。『ベイビーわるきゅーれ』(21年)を観て、僕もこんなアクションがしてみたい! と思ったんです」

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 ベルリン国際映画祭での特別表彰を受けて、横浜監督は「本作は、なにか素敵なことが起こるかもしれないというささやかな予感を胸に、無邪気に作品を作り続ける若者たちの映画です。賞をいただけたのは、彼らの予感が伝わったからかもしれません」とコメントを寄せた。原田琥之佑という俳優もまた奏介たちのそれによく似た予感を胸に、作品づくりを続けていく。

撮影 鈴木七絵/文藝春秋
スタイリング 作山直紀
ヘアメイク 塩山千明

INTRODUCTION
漫画家・三好銀による「海辺へ行く道」シリーズを原作に、横浜聡子がメガホンをとり、今年のベルリン国際映画祭のジェネレーションKplus部門(子どもを主人公かつ題材にした作品部門)でスペシャルメンション(特別表彰)を獲得した。主演の原田琥之佑ら少年たちのみずみずしさと、麻生久美子、高良健吾、唐田えりか、剛力彩芽などが見せるクセのある演技がマッチした、ユーモアあふれる一篇。Dos Monosのトラックメイカー・ラッパーの荘子itが自身初の映画音楽を担当している。

 

STORY
移住支援をしている、ちょっと不思議な海辺の街。やってくる大人たちもひと癖ありそうな人物ばかり。そんな街に住む美術部員の中学2年生・奏介(原田琥之佑)と仲間たちは、演劇部の手伝いや、新聞部の取材と、夏休みが来たというのに大忙し。さらに奏介のもとに、不思議な依頼が舞い込んできて……。

 

STAFF & CAST

監督・脚本:横浜聡子/出演:原田琥之佑、麻生久美子、高良健吾/2025年/日本/140分/配給:東京テアトル、ヨアケ/©︎2025 映画「海辺へ行く道」製作委員会

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