これまでに1500本以上の映画の字幕翻訳を手がけてきた戸田奈津子さんは2022年に通訳業を引退。しかし88歳を迎えた今もなお、3時間を超える大作の字幕翻訳を手がける。仕事への情熱と、ハリウッドスターや映画監督との交流について聞いた。(全3回の1回目/続きを読む、もっと読む)
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88歳で現役 50年で1500本以上の字幕翻訳を手がけてきた
――日本公開時期がほぼ同時期となった『メガロポリス』と『ミッション:インポッシブル(以下、MI)/ファイナル・レコニング』。「字幕:戸田奈津子」のエンドロールに、喜ぶ方は多いと思います。通訳業は引退されましたが、字幕翻訳は88歳の今もしっかり現役ですね。
戸田奈津子さん(以下、戸田) ありがとうございます。通訳は本当に私のやりたいことではなかったので、いつでもやめる準備はできていました。
それに私は今年88歳ですが、この年齢になると、とっさに名前が出てこないのです。たとえば英題と邦題で異なる映画のタイトル。覚えたはずなのに、肝心な場面で瞬時に出てこない。歳をとると、「あれあれ」「これこれ」となることも増えましたから、これはもう通訳として失格だと思いやめました。だいたい、世界中を探してみても、90歳近い通訳なんていませんよ(笑)。
一方、字幕翻訳はその場で瞬間的な翻訳を求められることがありません。だいたい1週間くらいの期限内に字幕翻訳を完成させればいい。瞬発力やとっさの判断力が多少鈍ったとしても、問題なくできるので続けています。
――それでもたった1週間で、3時間を超える大作の字幕翻訳に取り組むことは大変ではありませんか?
戸田 何か新しいことをやるなら大変かもしれませんが、これまで50年、1500本以上の洋画で字幕翻訳を手がけてきた私にしてみれば、慣れ親しんだ作業。たとえ超大作であっても、短い映画であっても、来た作品1本ずつに向き合い、字幕翻訳を考えるだけですから、それほど大変ではありません。
『メガロポリス』は、近未来のアメリカを古代ローマ帝国になぞらえて描くという壮大なスケールの作品です。情報量も多く、映画として理解が難しいところが多々ありましたが、セリフの内容や言葉自体は難解ではなかったので、それほど難しいものではありませんでした。しかもしっかり構成を練り上げた完成品が届き、時間的にも余裕があったので、ノーマルなペースで取り組むことができました。