最大の苦労となった『ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング』

――では『MI』もそれほど大変ではなかった?

戸田 いえ、こちらは『メガロポリス』とは雲泥の差がありました。まず、敵がAIというところから理解が追いつきません。88歳のアナログ人間からしたら、生き物ではない相手と戦うという概念も想像がつかない世界です。それを紐解いていくのが最初の困難でした。

 仮に時間がたっぷりあって、知らないことを一つひとつ理解していくプロセスに時間がかけられたとしたら楽しかったのかもしれません。でも、映画が届いたのがジャパンプレミア(映画などの作品を日本で初めて上映する試写会などのこと)の1カ月前。それも70%しか完成していない状態で、その後の1カ月間でどんどん内容も変わっていく、という状態で……。

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 結局、できあがったのは、ジャパンプレミア前日の5月5日。死に物狂いで作業して初号試写に間に合わせましたが、50年間やってきてこんなに苦労したのは初めてでした。

 いわゆる大作と呼ばれる作品では、これまでにもなかなか映画が完成しなくて苦労したことはありましたが、今回ほどのギリギリは前代未聞。急かされすぎて流れがブツ切りになってしまったので、リズムが崩れてしまって……。初号試写を観た時に、字幕翻訳で気になるところがあちこち目につきましたが、仕方がないと諦めました。裏話は言い訳がましく聞こえるだけですから(笑)。

 

「非常に嬉しいサプライズでした」トム・クルーズの神対応

――主演のトム・クルーズが映画のPRで来日された際、記者会見の場で「感謝を伝えたい人がいる」と戸田さんのお名前をあげて呼びかけておられたのは、そんなご苦労をねぎらいたいというお気持ちも大きかったのでしょうか。最後の『MI』も戸田さんに字幕翻訳をご担当いただけたことも嬉しかったのでしょうね。

戸田 あれは私もまったく知らなかったので、大変驚きましたが、非常に嬉しいサプライズでした。あんなふうに言ってくださる方はトムのほかにいません。裏方の字幕翻訳者にもねぎらいの言葉を忘れずにかけてくれるところは、本当に彼らしいなと思います。

 でもトム本人は今作で終わりとは言っていません。確かにタイトルには「ファイナル・レコニング」とついていますが、『MI』も『トップガン』もまだファイナルじゃないと言っていたので、きっと作るつもりなんだろうと思います。

 観客としてはぜひ続編を期待したいですが、トムも不老不死ではありませんから(笑)。ただ、あの人は何をやるかわからないので楽しみです。