経産省の「罪滅ぼし」
なぜINCJはJDIを救済したのか。液晶、プラズマの薄型ディスプレイを、かつて惨敗した半導体に代わる輸出産業にしようと、散々旗を振った経済産業省の「罪滅ぼし」だったと筆者は見ている。
筆者は新聞社に勤務していた2002年に4年間のロンドン駐在を終えて東京に戻り、情報・通信産業を取材するグループのキャップになった。そこで感じたのは「薄型ディスプレイ万歳!」の異様な盛り上がりである。ロンドンでも日々の紙面作りで感じていたが、現場の熱狂は凄まじかった。
記者は電機大手に張り付いて、薄型パネルの工場新設や既存工場での増産のネタを探す。松下電器産業(現パナソニック)、シャープ、東芝、日立製作所から仕入れた増産のニュースが、連日のように朝刊1面を飾った。記事には判で押したように同じ文句が使われた。
「製造業の国内回帰」
1985年のプラザ合意後の円高で価格競争力を失った「メイド・イン・ジャパン」の自動車やテレビは、その生産拠点を消費地に移した。日本の自動車、電機は依然として強かったが、完成品の輸出は激減した。いわゆる「産業の空洞化」である。「最後の砦」とされた半導体もメモリのDRAMは韓国のサムスン電子やLG電子、ロジックは米インテルなどに市場を奪われた。資源に乏しく、加工で付加価値を乗せた製品の輸出で外貨を稼ぐ「貿易立国ニッポン」にとって、由々しき事態である。
そこに現れた救世主が薄型ディスプレイだ。1992年、液晶・プラズマパネルが「半導体に代わる基幹の輸出産業になる」と見た通商産業省(当時)は「高度電子ディスプレイ開発プロジェクト」を立ち上げ、430億円を助成。シャープ、松下電器産業、日立製作所、ソニー、NEC、東芝などがプロジェクトに参加した。開発支援は2000年代前半まで続き、総額で1000億円近い補助金が投じられた。
※本記事の全文(約8500字)は月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(大西康之「薄型ディスプレイの落日 JDIはなぜ「ゾンビ企業」になったのか?〈産業革新機構の失敗〉」)。全文では、下記の内容を図表入りでお読みいただけます。
・なびかなかったシャープとソニー
・「やるべきことができない」
・3億を出し渋ったINCJ
・グーグルがシャフトを買った
・INCJの源流は産業再生機構
・ゾンビ救済機関となったJIC
・倒産=この世の終わり、ではない
出典元
【文藝春秋 目次】大座談会 保阪正康 新浪剛史 楠木建 麻田雅文 千々和泰明/日本のいちばん長い日/芥川賞発表/日枝久 独占告白10時間/中島達「国債格下げに気を付けろ」
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