広瀬のモヤが晴れた瞬間

 石川監督も、撮影前に役者たちによるセッションの時間を多く設けて、対話を重ねていったそうだ。

「本読みをしたり、セットに入れていただいて家ではどのように行動するのか確認したり、そういったところから悦子の生活をイメージできるようになりました。そのうち、自分が演じる以外の要素もたくさんある物語だから、純粋に台本に沿って演じよう、と考えるようになりました」

 

 そうすると、広瀬のモヤは少しずつ解消していったという。

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「本読みで(二階堂)ふみちゃんが、佐知子さんの異質な存在感を出されているのを見て、自分も悦子のように引き寄せられていきました」

 そう言って笑うと、ひといき置いて広瀬は付け加えた。

「誰が誰ではなくて、みんなで人間の持つ脆さや、この時代に生きた女性たちの思いというものを演じることができたと思います」

深野未季=写真
遠藤彩香=スタイリング
小澤麻衣(mod’s hair)=ヘアメイク

衣装協力:イヤーカフ
リング:RIEFEJEWELLERY/リーフェジュエリー

ひろせ・すず 1998年生まれ。2012年にファッション誌「Seventeen」のオーディション「ミスセブンティーン2012」で、専属モデルとして選出される。翌年ドラマ『幽かな彼女』で女優デビュー。映画『海街diary』(15年)で第39回日本アカデミー賞新人俳優賞など数々の賞を受ける。その後『ちはやふる』シリーズ(16、18年)、『四月は君の嘘』(16年)、『流浪の月』(22年)、『ゆきてかへらぬ』(25年)などさまざまな話題作に出演。本作のほか、出演映画『宝島』(9月19日公開予定)も控えている。

INTRODUCTION
ノーベル賞作家カズオ・イシグロが1982年に発表した長編デビュー作を、『ある男』(22年)で日本アカデミー賞最優秀作品賞を含む最多8部門受賞の石川慶監督が映画化。1980年代のイギリスで語り部となる悦子には吉田羊、長崎時代の悦子に広瀬すず、そこで出会うミステリアスな女性・佐知子に二階堂ふみなど、俳優たちの演技にも注目が集まる1作。

STORY
1980年代、イギリス。娘のニキ(カミラ・アイコ)は、長崎で原爆を経験し、戦後イギリスへ渡った母・悦子(吉田羊)の半生を作品にしようとしていた。悦子は長崎時代にかつての自分(広瀬すず)が出会った佐知子(二階堂ふみ)という女性と、その幼い娘、万里子とのひと夏の記憶を語り出す。初めて聞く母の体験──だが、ニキは悦子の話す物語に少しずつおかしなところがあることに気づく……。

STAFF & CAST
原作・エグゼクティブプロデューサー:カズオ・イシグロ/監督:石川慶/出演:広瀬すず、二階堂ふみ、吉田羊/2025年/日本・イギリス・ポーランド/123分/配給:ギャガ/©︎2025 A Pale View of Hills Film Partners
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