なお、対局前の駒を磨き、駒袋のヒモを結ぶのは記録係の役目である。
(藤井先生の対局だからヒモをしっかり結んで失礼がないようにしよう)
こんな記録係の配慮が藤井二冠を困らせていたとしたら、ちょっと切ないなあ。この記事を読んで愕然とする記録係がいたりして……。
「誕生日 弟子より師匠が もの思う」
実はこの祝賀会の翌々日は藤井二冠の誕生日。叡王戦の主催社・不二家からバースデーケーキのサプライズがあり、そのプレゼンターは私であった。
万松寺・大藤元裕住職の扇子を借りローソクの火を消す。いつも誕生日には関心がなさそうな藤井二冠だが、きっとこの日は代わりにファンが楽しんだはずだ。
会も終わり控室。実は私、対局以外で藤井二冠と会うのは久しぶりであった。
「外泊多いから全然家で寝ていないでしょう?」
「いえ、七月は××日間家で寝ます」
それは一カ月の約三分の二。正確な数字の即答に(そういう子だった)と思い出した。
関係者から控室へ差し入れられたお菓子。山分けして半分を私が貰い、残りを藤井二冠に手渡す。
「藤井君、もう一個余分に持って帰ったら? 家で食べるでしょ?」
「はい、では……」
若干戸惑いながらリュックにそれを詰める藤井二冠。うん、まだまだ子どもだ……って自分がそう思いたいだけか。スニーカーでなく革靴のもうすぐ十九歳の藤井二冠を見て浮かんだ。
〈誕生日弟子より師匠がもの思う〉(字余り)
夏休みは学生の弟子たちも勝負の日々。いつの時代も若い人の成長は眩しく、こちらは時の流れを感じつつ元気をもらうのだ。



