第51期棋王戦で藤井聡太棋王に挑戦する増田康宏八段(28)と森下卓九段(59)の“師弟対談”が実現した。10代の頃の増田は才気あふれる四段で、「師匠の考え方は古い」と真っ向から反発を見せていた。
前回の「師弟」取材から8年が過ぎ、増田はA級棋士となり、タイトル挑戦も経験した。今、二人は何を思うのか。師弟ゆえの本心がぶつかり合う対話をお届けする。
師弟対談 王道とロマン
森下 藤井君がデビューした頃ですけど、彼が2手目に8四歩と指すのを「将棋の王道を目指している」と思ったんです。それをある中堅棋士に話したら、「昔はそう言われましたけど、彼は単にAIに忠実だから指しているんじゃないですか」と言われました。
増田 王道だから8四歩と突くことはないですよ(笑)。今や王道なんてないです。
森下 私の頃はあったんです。2手目に堂々と8四歩と突いて、相手が何で来ても受けて立ちますと。
増田 今は勝てる確率の高い方を選んでいきますね。ただ、AIを使えば勝てると思っている人は多いと思いますが、実際にはそれほど成績が上がっているわけじゃありません。AIを使うことが解決策ではないです。僕はどちらかというと地力で勝ってきた部分が大きいと思っています。
森下 なるほど。序盤の作戦をある程度押さえておいて、知らずに負けることを避ける程度ですか?
増田 そうですね。だた、今は形が多すぎて、誰であっても把握しきれません。矢倉ならもう100通りくらいはあるので。
森下 これが“ヤグラ”と言われても、自分なんかは拒否感を持つわけですよ。これも矢倉なのかと。
増田 先生の時代は、矢倉はがっぷり四つに組む時代だったじゃないですか。今は先生が矢倉にしようとしたら、相手が組ませてくれません。その方が勝てると思っているので。
森下 確かにそうですね……。でもAIによって見直された過去の戦法というのも結構あるんですかね。木村(義雄)十四世名人が指していた角換わりの6二金型などはずっと指されていなかったのが、今は当然のようになりました。
増田 AIが来るまでは何やっても大変な感じでしたから。
森下 絶対的なものが示すから指すというだけじゃなく、そこに将棋の発展と可能性を求めて自分の信じる手を指すというのは、今の人には通用しないのかな?
増田 先生はロマン派なんですね。



