第51期棋王戦で藤井聡太棋王に挑戦する増田康宏八段(28)。著者は8年前、増田と師匠の森下卓九段(59)を取材して、その成果を『師弟』(光文社文庫)にまとめた。10代の頃の増田は才気あふれる四段で、「師匠の考え方は古い」と真っ向から反発を見せていた。

 いまや増田は順位戦A級リーグ在籍となり、昨年は第50期棋王戦で初のタイトル挑戦も果たして、名実ともにトップ棋士となった。まずは、2期連続で棋王戦五番勝負の舞台に駒を進めた増田の独白をお届けする。

増田康宏八段

ライバルの分析

「藤井聡太六冠からタイトルを獲れますか?」

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 2026年1月、棋王戦挑戦者になった増田康宏八段に率直な質問をぶつけてみた。返ってきたのは、増田らしい感情を隠すことのない答えだった。

「一発かませるとは思うんですよ。僕は最大出力には自信がある。それを出せるコンディションと作戦面でしょうか。ただ、序盤の研究にはあまり時間を割いてこなかったので、その選択の幅を厚くしなければならない。昨年は事前の調整で混乱してしまったのですが、解決策はいろいろと見えてはいます」

 棋界の絶対王者・藤井聡太は、好不調の波が非常に小さいとされる。中終盤の読みの深さ・正確さが高い勝率の要因と見られがちだが、序盤における知識量こそが、それを可能にすると増田は言う。

「序盤でストレスを感じないことで、中終盤に集中力を発揮することができる。あと、負けるかもというプレッシャーがないように見える。精神への不要な消耗は少ないほどいい。ただ、最近の対局には『あれっ?』と感じることがありました」

 藤井がこの数年でもっとも多く対局しているのは永瀬拓矢九段と伊藤匠二冠だ。二人はタイトル戦で拮抗した戦いを見せ、現在では「三強時代到来」との声も聞こえ始めた。増田は、彼らが藤井との実力差を詰めているのは間違いないと言う。

「王将戦第1局(2026年1月11日)では永瀬さんが“角換わり”でかなり良い展開に持っていって、後手番の藤井さんは苦しい状況に追い込まれていた。やはり先手番を生かしてくる将棋では、後手番を持つことにプレッシャーがかかる。

 昨年の王座戦最終局でも伊藤さんに“相がかり”で同じようにやられている。藤井さんは序盤戦で、これまでになかったストレスを感じているのではないか。事前の準備段階から影響するので、以前のような気持ちでは対局に臨めなくなっているのかもしれない」