8月22日、文藝春秋より杉本昌隆八段のエッセー集『師匠はつらいよ2 藤井聡太とライバルたち』が発売された。それを記念した杉本八段と深浦康市九段の対談パート3は、弟子と家庭についてから話が始まる。

 奨励会と進学をどのように両立させるかは悩ましい。保護者と弟子の板挟みになったとき、師匠はどのように考えるのだろうか。後半では、藤井聡太VS佐々木大地のタイトル戦も振り返ってもらった。(全4本の3本目/つづきを読む)。

佐々木大地七段の師匠・深浦康市九段 撮影=杉山秀樹/文藝春秋

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未成年の弟子を育てる難しさ

杉本 弟子を見て「強いのに何で奨励会だと勝てないんだろう」と悩むことがあります。将棋の内容を見れば、集中しているかどうかはわかりますね。しかし、受験勉強があって大変というケースもあり、進学や家庭の事情となるとこちらも気を使います。

――保護者の方の考えもありますしね。

杉本 特に未成年の弟子は、家庭の方針が大きいですよね。20歳を超えたら、ある程度は本人の考え方が大事でしょうけど。仮に自分と弟子が同じ考え方だったとしても、保護者の方がそうじゃないケースもありますし、逆に保護者と自分の考えが同じでも、弟子が違うというパターンもある。

 そうなると、私も板挟みになって難しいんですよ。進路相談を受ける中学や高校の先生と似ているかもしれませんが、こちらは10代前半からずっと続くので大変です。

 

地方の奨励会員は家族一丸での戦い

――プロになれなかったときに備えて、学歴を身につけてほしい反面、受験や学校に時間を割くと将棋に打ち込めないジレンマがありますよね。深浦門下のように地方の奨励会員だと、上京してより将棋に集中するかなど、さらに複雑な話になってきます。

深浦 ええ、そうですね。この間まで大分に弟子が2人いました。彼らは大阪の奨励会に参加するために、前日に遠征してホテルに泊まり、例会当日に帰ります。家に着くのが夜23時を過ぎますし、翌日は学校もあります。

 奨励会幹事の棋士に相談して、片付けの当番は免除してもらったこともあります。その辺りは、遠方に住んでいる奨励会員ならではです。

 

杉本 私の弟子は中部地域ですが、それでも大阪は遠征です。例会の当日に大阪入りし、終わったらすぐ地元に戻って、翌日は学校に行く。ハードなスケジュールでしょうから、首都圏に住んでいる奨励会員とはまた違う覚悟は必要だと思います。

――北海道に住んでいる人の終電は、飛行機です。しかも北海道は広大ですから、空港に親が車で迎えにきて、夜通し運転して帰るという話を聞きます。翌日に学校や仕事があることを思うと、家族一丸での戦いです。

深浦 齊藤優希くんが札幌に住んでいたときは、奨励会の日程が出たらすぐに安いチケットをまとめて買っていたそうです。交通費、宿泊費の負担も大変だと思います。

――奨励会は土日に開催されるので、宿泊代なども最も高いでしょうね。

杉本 昔は平日でした。それはそれで、学校の出席日数を満たすのが大変です。テストと将棋が重なったら、弟子は将棋を取りたがるけど、親御さんはテストを受けなさいとなりますし。