8月22日、文藝春秋より杉本昌隆八段の『師匠はつらいよ2 藤井聡太とライバルたち』が発売された。『週刊文春』の連載をまとめた単行本で、第1巻は何度も重版されたベストセラーである。第2巻には、藤井七冠が初めて名人を獲得し、史上初の八冠完全制覇を成し遂げた2023年からの約2年間分が収録されている。
今回は発売を記念して、「師弟」をテーマに杉本八段と深浦康市九段に対談してもらった。将棋界は弟子入りしないとプロになれない。何十年も続く師匠と弟子の距離感は難しく、一門によって様々である。
杉本昌隆八段は地元の愛知県を中心に弟子を抱えている。プロになったのは、藤井聡太竜王・名人(七冠)、齊藤裕也四段、室田伊緒女流三段ら女流棋士3人。九州出身の深浦九段は地方在住者を中心に弟子を取っており、佐々木大地七段は長崎県、齊藤優希四段は北海道出身だ。
師匠といえば威厳がありそうだが、実際は苦労が多いという。対談は一門研究会の話から始まった。(全4本の1本目/つづきを読む)
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一門対抗戦を始めたきっかけ
――2023年から杉本一門と深浦一門の奨励会員で、ネット将棋による対抗戦をやっているそうですね。いつ頃から始まったのでしょうか。
杉本 深浦さんに誘っていただいたのがきっかけでした。戸辺(誠七段)門下、飯塚(祐紀八段)門下も参加しています。
深浦 私は九州出身ということもあって、九州を中心に地方のお子さんを弟子にとっています。奨励会に入っても地方在住の弟子が多く、一門全体で離れ離れです。私とネット将棋で指すことはあっても、他門下の奨励会員と指すのは難しい。実戦を少しでも増やしてもらうために、月1回ぐらいのペースで開催してもらいました。
杉本さんは名古屋中心、飯塚さんと戸辺さんは東京中心なので、お互いに普段は交流がない人とも指せたと思います。
杉本 私は月1回、名古屋で集まって一門研究会をやっています。しかし、普段指している相手だと、どうしても慣れてしまって真剣味には欠けてしまうときがある。
ネット研究会は、顔が見えなくても同じ目標を持った同世代の人たちと対局できるので、よい刺激になっているようです。
「師匠がふらっと見られるのがいい」ネット将棋のいいところ
――どういう形式で行っているのでしょう。
杉本 当日に参加できる人で、基本的に研究会のレーティングが近い人同士が自主的に対戦カードを決めています。全員がハンドルネームなので、自分の弟子以外は誰が指しているのかわかりません。でも、弟子は肌感覚でわかるようですね。
深浦 インターネット対局は、師匠がふらっと見られるのがいいところですよ。あの局面はこう指したほうがいいとかいえますから。
杉本 うちの弟子は割と活躍していたような気がします。私が見ていたせいかもしれませんが(笑)。





