8月22日、文藝春秋より杉本昌隆八段のエッセー集『師匠はつらいよ2 藤井聡太とライバルたち』が発売された。それを記念した杉本八段と深浦康市九段の対談パート2は、弟子の吉報を待つ三段リーグの最終日に話が及んだ。
年齢制限が迫る弟子が負けた一報を聞いた直後、わずか10分もない昼寝の夢に弟子が出てきて辞める挨拶までされたこともあったそうだ。「何が正しいかはわからないんですけど、できることだったらなんでもしてあげたい」という言葉にもあるように、弟子は我が子同然なのだろう。(全4本の2本目/続きを読む)
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「一発を食らったときアツくなる」藤井七冠の一面
深浦 私がいちばん最初に藤井さんと会ったのは、藤井さんが正式にプロデビュー(2016年10月1日)して数日経ったときです。杉本さんの研究部屋で将棋を指してもらい、杉本さんの奥様にお弁当を買ってきていただきました。
杉本 深浦さんを送ったあと、藤井くんが研究室に残って深浦さんに負けた将棋を弟子と検討していました。そのときにやたらと藤井が悔しがっていたような気が……。すいません、多分彼の中では「勝っていたのに一発食らった」と思っていたような気がします(笑)。
深浦 はは(笑)。2回目に練習将棋を指したときは、藤井さんは連勝記録で注目され、時の人でした。帰りの駅で「囲まれたらどうしよう」と心配したのを思い出します。
杉本 うちの研究会は雰囲気が柔らかいので、思っていることを口に出しやすいでしょうね。研究会も様々で、本番さながらの緊張感があるようなところもあります。
奨励会員はみんな尖っていて、自分のことでいっぱいいっぱい。お互いに主張を曲げないと喧嘩になりそうです。でも、当然ながら強さは正義なので、負けた方が何をいっても説得力に欠けます。
そういう子に、あとで私から声をかけることはありますね。自己否定をされた気分だと思うので、自信を取り戻してもらわないと。
深浦 藤井さんもアツくなるぐらい主張を曲げないときもあったんですか。
杉本 他の弟子より強かったので、基本的には主張が通ります。アツくなるのは、やっぱり一発を食らったときですよ。
傍から見たらどっちが勝ってもおかしくない将棋でも、彼の中では勝つイメージだったのに負けてしまうと、すごくアツくなる。「そんなに悔しがられたら、相手の立場がないよ」といったこともありますが。
――藤井少年は素直に「はい」といいましたか?
杉本 納得したかどうかはわからない。でも、その後もアツくなるときはアツいから、あんまり変わってないと思いますよ(笑)。




