プロ入りをかけた大勝負の日、夢の中に弟子の姿が…

――齊藤裕也四段は2022年、25歳でプロ入りした苦労人です。師匠として心配されたでしょう。

杉本 心配を通り越すような感じでした。ただ、指している将棋は強かったですし、よく頑張りました。三段リーグ1期抜けの爆発力は素晴らしかったです。

 高田明浩五段、宮嶋健太四段、柵木幹太四段という地元で同世代のライバルが、彼を引っ張り上げてくれたのでしょう。皆さんに研究会をやる場所を提供したという意味では、師匠らしいことができたと思います。

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――文春オンラインの記事では、齊藤裕也三段がプロ入りを決めた日の一喜一憂が書かれています。弟子が大事な場面で負けたのを杉本八段が聞いたときは「あまりにがっかりして、辞めるときの挨拶まで浮かんだ」とありました。改めてどういう気持ちだったのでしょうか。

杉本 昇段を決めた日は1局目に負けて、今回は難しいんじゃないかと半分諦めていたようなところがありました(奨励会の三段リーグは1日に2つの対局がある)。彼は25歳と年齢的にも余裕がない状況だったので、このまま数年経ってしまうと退会してしまう。今だから言えますけど、もちろん来期も来々期もあったんですけど、辞めるときの挨拶までリアルに浮かんでしまったんですね。それくらい1局目を負けたときはがっかりしました。

杉本 あのときは白玲戦の仕事で、鹿児島県指宿市にいました。齊藤裕也は最終日に連勝すればプロ入りだったのに、1局目に負けたんですよね。

 それを知ったときはちょうどお昼休み。午後の仕事に備えるために5分だか10分ぐらい仮眠したんですが、夢のなかに齊藤裕也が出てきて「すいません」と辞める挨拶をされたんですよ。

 起きた後、ヒューリック株式会社(白玲戦主催、棋聖戦特別協賛)の西浦三郎会長に色々と励ましの声をかけていただいて、すごく気持ちが楽になったのを覚えています。1局目に負けた時点で最終戦に勝ってもプロ入りは他力になってしまいましたが、結果的に昇段してよかったです。

 

――何とも劇的な一日でしたね。深浦九段も、弟子の吉報を待っているときはハラハラしたんでしょうか。

深浦 夢には出てこないですけどね(笑)。最終日に昇段の目があったときは何回かあって、午前中に勝ったからこの流れならいけるだろうと思ってもなかなか届かなかったです。