8月22日、文藝春秋より杉本昌隆八段のエッセー集『師匠はつらいよ2 藤井聡太とライバルたち』が発売された。それを記念した杉本八段と深浦康市九段の対談パート4は、師匠の本当につらかった話。
いちばんは、やはり弟子との別れだ。最後は、エッセーを読んだ藤井聡太竜王・名人(七冠)からいわれた感想も聞いた。(全4本の4本目/最初から読む)
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「深浦さんの人柄は好きですけど、将棋は嫌いです(笑)」
――タイトルにちなんで、師匠が最近つらかったことを教えてください。
杉本 順位戦B級2組の最終戦で深浦さんに負けて、落とされたことですね(苦笑)。負けはもちろん悔しいけど、周りにずっと気を使われるのがつらい。そんなことを気にしていたらキリがないから、気持ちは切り替えています。
あ、でも深浦さんには結構痛いところで負けている気がする。ここだけの話、深浦さんの人柄は好きですけど、将棋は嫌いです(笑)。
将棋のプロになって、同じ道を歩むのは一握り
――前期の順位戦B級2組は稀に見る大混戦で、26人中13人が指し分け。その中で順位が最下位の杉本八段に降級点がつきました。
深浦 制度上、指し分けでも降級点がつくのは、直前まで知らなかったです。自分も5勝5敗で、杉本さんに負けていれば降級点でした。とにかく精一杯戦いました。
杉本 冗談はさておき、本当につらかったのは、今年になって弟子が何人も辞めたことです。ひとりは三段で年齢制限、ほかは高校進学と大学受験が理由ですね。急に減った気がしました。自分から進学を機に辞めるのはまだしも、年齢制限の退会はつらいです。
深浦 それは自分も思いますね。大分の弟子はひとりが年齢制限、もうひとりはお父さんのような職業の道に進みたいというのが理由でした。小さいころから見守ってきたので、つらいですね。将棋のプロになって、同じ道を歩むのは一握りですよ。
杉本 生き残りとか表現されますよね。でも、しばらく経ってから辞めた弟子に会うと、奨励会員のときより間違いなく元気になっています。吹っ切れたんでしょう。いまはプロになる道が奨励会だけではなく、アマチュア代表として活躍すれば棋士編入試験も受けられます。
あの制度は難易度が高くても、奨励会がすべてじゃないという意味では希望になるので、非常に素晴らしいものです。
深浦 齊藤優希くんもプロになってから明るくなりましたよ。仕事もバンバンやるし、漫画の監修まで引き受けていますから。三段リーグのときは死にそうな目だったのに、こんなに変わるかなと思うほどです。
杉本 今まで押さえつけられたものが、すべて解放されるのでしょう。奨励会員はかわいそうですよ。将棋をやっていなかったら、普通の20代青年として楽しいことがたくさんあるだろうに、全部をプロになるまで我慢しないといけない。そういう意味で厳しい世界だと思います。





