深浦 いいですね、そういうおふたり。あの企画は放送も見ましたけど、うちとは全然、空気が違っていましたよね。杉本チームは将棋を中心に穏やかな時間が流れていましたけど、こっちは少し踏み外すともっと喧嘩になりかねないようなピリピリ感でしたから(笑)。

 だんだん、弟子も生意気になってきました。佐々木も昔は素直だったのになぁ。10代で三段のころだったか、仲間同士で「いちばん成績が悪い人は頭を丸める」と約束したらしく、佐々木が丸坊主になっていました。あのときのほうが純情だった(笑)。

杉本 うちの師匠(板谷進九段)はそういうのが好きで、何かあると自分も丸坊主になっていたなぁ。

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“藤井聡太に立ち向かう弟子”をどう見たか

――2023年、佐々木七段は藤井聡太さんに棋聖戦と王位戦で連続挑戦されました。深浦九段はどういう気持ちで見ていたんですか。

深浦 どこかでタイトル挑戦はやってくれると思っていましたけど、2つ連続は予想を裏切ってくれました。弟子が自分の想像を超えてくると嬉しいものですね。

 ただ、相手は藤井聡太さん。当の本人も、スキのない人とどう戦うかは真剣に悩んでいました。師匠としては、タイトル戦の経験をもとにアドバイスはしたいけど、その教訓はどう考えても生かせないんですよね。

 

――深浦九段がタイトル戦を戦っていたのは1990年代後半から2010年頃です。そんなに違うのでしょうか。

深浦 いまはAI研究の時代ですし、何より相手は藤井聡太さんですから。

 例えば、2日制で1日目の夜、タイトル戦の経験が少なかったころは「こんな手もあるんじゃないか」と心配して眠れなくなったことがあります。でも、どうやっても予想外なことは起きるから考えてもしょうがないと、あるときから開き直って眠れるようになりました。

 蓋を開けてみると、心配していた展開にはならないことが多いです。ただ、やっぱり藤井さんは正確無比なので、心配が現実になる可能性が高い。師匠としては弟子と一緒に戦いたい気持ちはあったけど、それはなかなか叶いません。

 それなら、やっぱり形になるものをあげるほうがいいと思って、袴を買ったり、自分の和服をあげました。和服を着るときのアドバイスはしましたよ。それは素直に聞いてくれましたね(笑)。