「自分の将棋は80%か50%の両極端に分かれる」

 増田は技術面よりも、相手の対局心理に目を向けている。それは自身が抱える内面の課題と、照らし合わせてきたものかもしれない。その分析は永瀬と伊藤についても語られた。

「永瀬さんは、終盤が強い印象ではなかった。ただ、それは誤解だった。棋士界では鋭い、派手な攻めが評価を浴びる。永瀬さんはあまりそういうことをせず、じっと相手の狙いを消したり、受けに回る場面が多い。ようやく自分も気付いたのですが、それが最も勝てるやり方なんです。最近はさらに序盤に隙がなくなっていて、先手番なら藤井さんに勝てる自信があるのではないか。それくらい追いついてきていると思う。

 伊藤君は一番冷静ですね。どんな場面でも物おじしないタイプ。負けを引きずらないというか、多分そういう感情の揺れが少ない。一昨年、叡王を奪取したときにそれをすごく感じました。第4局で完敗して追いつかれて、最終局では振り駒で後手番を引かされた。普通の棋士なら相当なダメージを受けてもおかしくない。正直、その流れで指せば藤井さんかと思ったのですが、あの将棋を勝ち切ったことは大きい」

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 勝負の世界には潮目が変わる瞬間がある。

「伊藤君にとってはあの一局が、まさにそうだったと言えるでしょうね」

 増田の才能と技術は、彼ら3人に比肩すると思われる。しかし実績では大きく遅れをとってきた。その理由として、自身をどのように分析しているのだろうか。

「自分の将棋は80%か50%の両極端に分かれる。最大値を80%にしているのは、人間は必ずミスをするので、それ以上は無理な領域ですから。メンタルの影響が大きいのですが、中間というのがないので、そこが課題です」

 最大出力で勝負したら将棋の才能的な部分で、藤井六冠に負けないと思うか?

「(笑)。あー、どうでしょう? 結構似ている部分はあると思うんですよね。純粋にこの局面でどうやるかみたいな勝負をしたら、いいところ戦えるかもしれません。実戦ではプレッシャーを感じにくい方が有利でしょうが、逆に僕にはその中で結果を出してきたという強みがある」

ピークを遅くする

「師匠の考え方は古い」

 8年前の取材で増田はそう言った。これまで19組の師弟の歩みを取材してきたが、真っ向から師の考え方を否定したのは増田だけだった。当時、増田はまだ19歳でC級2組四段だったが、発言への反動を恐れず、自分を信じる強さが印象に残った。

 

 増田は奨励会時代から才能を高く評価され、16歳でプロデビューした。3年後に藤井聡太がデビューするまで棋界で最年少の棋士だった。

「東の天才」――当時増田はそう呼ばれていた。西の天才・藤井聡太に対抗する存在として位置付けられたのである。しかし藤井が次々にタイトルを獲得していく中で、増田が大舞台に立つことはなかった。その間に後からデビューした棋士たちがタイトル挑戦に名乗りをあげ、5歳下で藤井と同学年の伊藤匠が、叡王と王座を獲得した。