ABEMAが縁で永瀬に研究会に誘われる。他に近藤誠也(現八段)、佐々木大地(現七段)という精鋭揃いだった。

「メンバーの3人の方たちは公式戦での勝率が高く、勝ち数もすごかった。僕は研究会での3局は勝ち越すことが多かったのだけれども、棋戦では結果が出せない。正直、彼らがなんであんなに勝てるのかわからなかった」

 若手棋士の中には月に十数回の研究会を行う者もいるが、当時の増田は5回程度だった。

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「僕があまりやりたくないのを知っているのか、声がかからない(笑)。正直、棋士と短い時間で指しても、精度が高いわけじゃないから、それで強くなるかは微妙だと思う」

棋譜を並べていると、理想的な集中状態に入ることができる

 何か自分に合った方法があるのではないか。模索する中で、増田はかつて否定した勉強法に目を向ける。

「9歳くらいから師匠に言われて棋譜並べをしてきました。棋士になってから一時中断したこともあったけど、2022年頃から再認識して力をいれるようになった。多分、現在の若手棋士の中では、自分が一番多く並べてきたのではないか。20年近くやってきて、一番しっくりくる勉強法になっている」

 盤上で駒を動かし、棋譜を手書きでノートに書き留めていく。指先で触れることは、科学的にも学習が進むとされる。8年前に取材したときに、自室でスタンディングしながらパソコンと向き合っていた姿からは、想像もつかないアナログな方法への回帰だ。

 棋譜を並べていると、理想的な集中状態に入ることができるという。

「毎日繰り返すことで、対局でも同じ感覚を掴むことができる。それが本当に良い指し手に結びついていく。ただ、棋譜を選び出すのがとても難しい。選出に失敗すると酷いことになる」

 酷いことになるというのは、どういうことなのだろうか?

「自分に適したレベルの棋譜を見つけなければならない。弱すぎても強すぎてもダメで、ちょっと上のレベルを見つける必要がある」

 妙な表現をするなと思った。対戦相手や戦型で選んでいるのではないのか? 増田よりも少し上のレベルとは一体誰のことなのだろうか?

「AIです。膨大なAI同士が対戦した棋譜の中から、自分に合ったものを見つけ出す。見るべきところは序盤ではなく、中終盤をじっくり時間をかけて並べ、初手からすべてをノートに書き留めていく。かなり辛い作業ですが、これを始めてから自分が強くなっているのは間違いない。以前は藤井さんの棋譜を並べることもありましたが、今はほとんど人間の棋譜を使うことはありません」

写真=野澤亘伸

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