森下 なるほど。

増田 当時の序盤研究っておかしかったですから。

森下 矢倉の91手定跡とか。

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増田 あれは結局覚える価値もなかった。

森下 私が奨励会の頃、米長先生は「弱いから序盤の研究なんかするんだ」と仰っていて、大山先生(康晴十五世名人・故)もそれに近かったと思うんです。中原先生は少し違った感じがしますが、序盤の研究をするというのは、羽生さん以降なんですよね。永瀬君は昔でいえば序盤逃げ切り型になるんだよね。

 

増田 間違いなくそうですね。今はそういうタイプが多い気がします。

棋士の記憶力

森下 康宏君も永瀬君も、大変な努力で膨大な序盤の変化を覚えるわけじゃないですか。覚えなければ話にならないわけじゃないですか。

増田 あー、ちょっと違う感じですかね。多分、そんなには覚えていないと思いますよ。

森下 そうなんだ!?

増田 自分が次にやるべき作戦しか覚えていない気がします。棋士はみんなすごい把握量と言われていますけど、誰もが多分そこまで正確に把握しているわけではないでしょう。もちろん、人によってばらつきはあると思いますけども。

森下 昨年の名人戦で永瀬君が先手番で千日手になったときに、後手番の作戦がないと話していて、ビックリしたわけです。永瀬君なら持ち玉がいくらでもありそうなんですけど。

増田 藤井さん相手に使える作戦はそんなにないと思います。あと多分、しっかりと覚えているというのは、その作戦を指すときぐらいだと思います。けっこう忘れちゃっていると思いますよ。

森下 忘れちゃっている?

増田 人間ですから忘れると思います。2ヶ月後、3ヶ月後まですべてを覚えてはいられないと思います。

森下 そうなんだ。でも対局はしょっちゅうありますよね。当然相手も強いわけで、そのときに忘れていて戦えるものなんですか?

増田 逆に同じ作戦ばかりだと狙われてしまいますから。

森下 例えば佐藤天彦さんは最近振り飛車を指すようになっていますよね。それも1局ごとに工夫を加えて。それは狙われるのを避ける意味もあるのですか?

増田 当然そうだと思います。相手にちゃんと研究されたら、同じ作戦は一度しか使えません。今はほとんどの棋士がそんな感じです。

森下 永瀬君でも3ヶ月したら忘れるものなんですかね。

増田 すべての変化を覚えているのは難しいと思いますけど。