最強棋士・藤井聡太の傍らには、時にやさしく、時に厳しく(?)寄り添う師匠・杉本昌隆八段の姿があった。最強の弟子の入門から八冠前夜まで、「週刊文春」の人気エッセイがついに文庫化。『師匠はつらいよ 藤井聡太のいる日常』(文春文庫)。
その中から「藤井二冠の“弱点”?」(2021年8月5日号)を転載する。
トークショーで披露された意外な弱点!?
ストレート防衛を期待するべきか名古屋対局を待ち望むべきか、それが問題だ。
藤井聡太二冠の防衛で幕を閉じた第九十二期棋聖戦。第三局の形勢が揺れ動いていたとき、名古屋・万松寺での第四局開催を待つ地元ファンの心も揺れていたはず。まるでハムレットのようである。
とはいえ現役最強・渡辺明名人相手に一勝でも返されるとシリーズの流れまでが変わる恐れがある。三連勝の防衛は藤井二冠自身はもちろん、ファンも安堵したシリーズであったはずだ。
本来ならそこで終わりの棋聖戦。しかし第四局開催予定日の前日、万松寺の全面協力を得て、大盤解説予定地の大ホールで藤井二冠の防衛祝賀会が行われた。
幅約百メートルの広い会場に約四百人の将棋ファン。正式な就位式とは別の、藤井二冠の地元ならではの盛大な祝賀会であった。
進行司会は中京圏で活躍する講談師・旭堂鱗林さん、将棋連盟の理事挨拶は私。地元色が濃いが、ゲストも豪華である。将棋好き芸人・サバンナの高橋茂雄さんと第四局の立会人だった先崎学九段。藤井二冠との三人トークショーは祝賀会の目玉で大いに盛り上がった。
対局中でない藤井二冠の表情は非常に朗らか。
「駒袋のヒモが固く締まっていると、解くのに苦労するときがあります」
自ら弱点を暴露する藤井二冠。タイトル戦開始前にそんな窮地に陥っていたとは……。




