「自分自身の経験も重ねながら演じました」
真利子 ダイナーのシーンもお二人の力量が際立っていました。外のシーンを撮り終えた後、確かに撮れたのになんか物足りなさを感じて。ジェーンの剥き出しの感情が足りない、要は脚本が足りてないと気づいて、脚本を書き直し、後日、別の場所で外のシーンを再撮影したのは、我ながらかなり無理なお願いでした。
西島 かなり大変なシーンの撮影だったので、やり直すのは難しいかもしれないと思いましたが、ルンメイさんは、何度でも真摯に向き合い、素晴らしい演技をしていました。俳優としても人間としても本当に素晴らしい方です。
真利子 西島さんも同じです。こちらの無理なお願いに応えてくださいましたよね。想像をはるかに超えるパフォーマンスを披露してくださり、本当に感激しました。
震災の記憶からか、あるいは破滅願望の現れか、最新の建築よりも廃墟に惹かれる建築研究者の賢治という役に、西島はどう挑んだのか。
西島 本作は、突然崩れた日常や人生をもう一度つなぎ直し、一歩先へ進もうとする物語です。息子の誘拐で揺らいだ日常を、賢治がどう取り戻すのか。震災やコロナ禍など、これまでの日常が当たり前ではなくなった自分自身の経験も重ねながら演じました。監督は、台本通りによどみなくセリフを言うよりも、感情が高ぶって言葉に詰まったり、思わぬ出来事が起きたりするありのままの瞬間を求めて撮っていたように思います。
真利子 予定調和より、コントロールしきれないことのほうが魅力的だという思いはあるかもしれません。慣れない海外で、どこまで平然とやり切れるか。
西島 世界観を作り込んでから撮影するのではなく、そこにある世界へカメラを持ち込むのが真利子監督のスタイルなのではないかと感じました。監督にしか撮れない世界観を、ぜひ味わっていただきたいです。
杉山拓也=写真
オクトシヒロ=スタイリング
亀田雅=ヘアメイク
にしじま・ひでとし 1971年、東京都生まれ。大学在学中より俳優活動を始め、1992年に本格デビュー。『ニンゲン合格』(99年)で映画初主演後、様々な映画やドラマに出演し、数多くの賞を受賞。『ドライブ・マイ・カー』(21年)では、全米映画批評家協会賞主演男優賞を受賞。近年の出演作に映画『首』(23年)、『スオミの話をしよう』(24年)、AppleTV+『サニー』(24年)など。
まりこ・てつや 『イエローキッド』(10年)で長編デビュー。長編第2作『ディストラクション・ベイビーズ』(16年)で、ロカルノ国際映画祭 最優秀新進監督賞、ナント三大陸映画祭 銀の気球賞を受賞。第3作『宮本から君へ』(19年)は、アジア映画批評家協会NETPAC AWARD 2020(香港・中国)最優秀脚本賞にノミネート。日本では日刊スポーツ映画大賞やブルーリボン賞などで最優秀監督賞を受賞している。
『ディストラクション・ベイビーズ』(16年)や『宮本から君へ』(19年)の真利子哲也監督が挑む最新作。国内外で活躍の場を拡げている西島秀俊が、全編ニューヨークロケ、セリフの90%以上は英語という新たな挑戦の中で、情感あふれる新境地を見せている。妻のジェーンを『薄氷の殺人』(14年)、『鷺鳥湖の夜』(19年)で一躍世界の注目を集めた台湾出身の俳優、グイ・ルンメイが演じた。
STORY
ニューヨークで暮らす日本人の賢治(西島秀俊)と、アジア系アメリカ人の妻ジェーン(グイ・ルンメイ)は、仕事や育児、介護と日常に追われ、余裕のない日々を過ごしていた。ある日、幼い息子が誘拐され、殺人事件へと発展する。悲劇に翻弄される中で、口に出さずにいたお互いの本音や秘密が露呈し、夫婦間の溝が深まっていく。ふたりが目指していたはずの“幸せな家族”は再生できるのか?
STAFF & CAST
監督・脚本:真利子哲也、出演:西島秀俊、グイ・ルンメイ/2025年/日本、台湾、アメリカ/138分/配給:東映/©Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.
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