独自の作家性で国内外から高く評価される真利子哲也監督が、英語セリフ九割以上、全編NYロケで挑んだ映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』。ニューヨークで暮らす日本人の夫とアジア系アメリカ人の妻──夫婦の幸せな日常が、ある事件をきっかけに崩れていくヒューマン・サスペンスだ。

 主演の西島秀俊と真利子監督がタッグを組むのは本作が初めて。互いに「一緒に仕事をしたい」と強く思っていたという二人が語り合った。

 

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「自分が勝負すべきなのは、英語ではなく…」

西島秀俊(以下、西島) 映画『ディストラクション・ベイビーズ』を観た時から、真利子監督と仕事がしたいと思っていました。ほかに同じような映画を撮る人がいない独自の作家性や、作品に潜む哲学的なものに惹かれました。

真利子哲也監督(以下、真利子) 僕も、いち映画ファンとして、いつかご一緒できればと思っていました。西島さんには“映画俳優”という強いイメージがあって、自分の弱さを理解しているからこそ、あえて傲慢さも表現できる。役作りにも非常に丁寧に向き合える方だと感じていました。

©Roji Films, TOEI COMPANY, LTD. 

西島 初めてお会いした時、映画の話で盛り上がりましたよね。同時期に、同じ映画を映画館で観てきたことがわかり、共通体験を持った近い年代の人に出会えた喜びがありました。英語のセリフや海外での撮影など、いくつものハードルはありましたが、「ご一緒したいです」とお返事しました。

真利子 西島さんなら、「できる/できない」ではなく、一緒に挑戦してくれると思っていました。ただ、「英語の発音が完璧ではないから」と断られたら……という不安もあったので、オファーを受けていただき、本当に嬉しかったです。

 

西島 僕が演じた賢治は英語ネイティブではなく、研究者としての成果でアメリカに呼ばれた設定なので、滑らかに話すことよりも、役をどう消化して表現するかを重視しました。もちろん、流暢に話せたほうがいいのは当然ですし、準備もしましたが、自分が勝負すべきなのは、英語ではなく演技だと思いました。

真利子 西島さんの演技には嘘がないので、観ていて居心地がいいんです。本作では英語でのセリフ、海外ロケ、多国籍スタッフとかなりの挑戦をしていますが、どこか観客のような気持ちで現場にいられたのは、西島さんとグイ・ルンメイさんのおかげです。

西島 僕にとっても、妻役のルンメイさんとご一緒できたのは非常に幸運でした。自然で真摯な演技を見せてくださる稀有な俳優さんです。