“普通”だからこそ“ヤバさ”が際立つ
高橋演じる未来の行動も驚くべきものではあるが、彼女はここに至るまでに夫の浮気を疑い、調べ、こうなってしまった責任が自分にもあるのではないかと反省した上で、「自分の中の良き妻が死んだ」と言って“豹変”している。まだ未来の方が「夫の不倫を知った妻」としての気持ちの変化を理解することができる。
では真夏がいつもこうして自分勝手なのかというと、そうではないところがまた興味深い。亡き母にそっくりな女性・紅子(水野美紀)に出会った真夏は、彼女に自分の母なのかを問いただす。だが、紅子に「母ではない」と否定された真夏は、潤ませた目からすーっと一筋の涙を流すのだ。
母はもう亡くなっていると思っていた真夏が「やっぱり母はいないのだ」と悟って流すこの涙がとても美しい。まさに真夏が“普通”に戻った瞬間である。
さらに、松本自身も“修羅場”とは程遠い、至って“普通”の感性を持っていることが、彼女のInstagramから窺える。
松本は、『夫の家庭を壊すまで』の後に出演した『最高のオバハン 中島ハルコ〜マダム・イン・ちょこっとだけバンコク〜』(東海テレビ・フジテレビ系)について告知した際、「前作、なかなかにヘビーだった『夫の家庭を壊すまで』が終わってすぐこの作品に入ったのですが(中略)どれだけ救われたか!」、「カテコワの痛みを癒す笑、セラピーのような役でした」と綴っている。
つまり松本は、真夏のような“ギリ普通”の女性を演じるとき、その不安定さを特に意識しているのだ。松本が“ドロドロ不倫”で輝いて見えるのは、自分勝手な行動と時折見せる普通さを絶妙なバランスで演じているからなのだろう。
『奪い愛、真夏』は、自分の気持ちを貫き通した真夏が時夢と幸せなゴールを決めるかと思いきや、未来がまさかのタイムリープを使ってそれを阻止してくる展開に。松本の“ヤバめ”で“ギリ普通”の芝居は最後まで大爆発しそうである。
