「現実の社会でもそうですが…」監督がキャストに伝えたこと

 契約社員のまじむが社内ベンチャーコンクールで沖縄産ラムを開発しようとするなかで、さまざまな「分断」があぶり出されていく。正社員と契約社員、沖縄本島と離島、男と女、旧世代と新世代。

「現実の社会でもそうですが、何かと何かが対立するとき、一方が悪で一方が正義なわけじゃない。立場や考え方の違いがあるだけです。正しさで相手をねじ伏せるのではなく、理解を呼びかけているうちにじんわり浸透し、協調に向かうような方法もあるんじゃないか。そんな提案をしたいと最初にスタッフやキャストに伝えました」

©2025 映画「風のマジム」 ©原田マハ/講談社

 周囲の人びとを巻き込み、助けられて完成した“初監督作品”は、まじむにとってのラム酒のように特別な一本に違いない。最後に、50代で映画監督デビューを果たしたいまの率直な感想を聞いてみた。

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「映画監督はCMの監督と違ってジャズセッションのマスターのような役割を求められるところがあり、それが自分にうまくできたかどうか。少なくとも、これまで何十年も映像に向き合って身につけたことはすべて出せたかなと。もっとやれる手応えがあったので、これからも“伝わる映画”をつくっていきたいですね」

芳賀薫監督(写真=深野未季)

はが・かおる 1973年、東京都生まれ。武蔵野美術大学造形学部映像学科卒業。PYRAMID FILM、THE DIRECTORS GUILDでディレクターとして数々のCM演出を手がけ、2022年に独立。代表的なCM作品に、阿部寛が店主を務める『檸檬堂』シリーズ、宮藤官九郎と松坂桃李が兄弟役を演じる『明治安田生命』シリーズなどがある。

INTRODUCTION

「沖縄のサトウキビを使ってラム酒を造る」。そんな事業を、社内ベンチャーコンクールを経て立ち上げた金城祐子氏の実話を基にした原田マハによる小説が『風のマジム』。その原作を、広告やショートフィルムで活躍してきた芳賀薫が初監督で映画化した。主演はNHK連続テレビ小説『虎に翼』(24年)での好演も記憶に新しい伊藤沙莉。脇にも実力派俳優が名を連ねる。

 

STORY

伊波まじむ(伊藤)は那覇で豆腐店を営む祖母と母と暮らしながら、契約社員として働いている。ある日、社内ベンチャーコンクールが開かれることを知り、バーで飲んでラム酒の美味しさに衝撃を受けた直後ということもあり、「沖縄のサトウキビを原料としてラム酒を造る」という企画を提出。第一次審査がなんとか通り、二次審査に向けて準備を進める中、栽培地である南大東島に蒸留所を作ることを思いつく。まじむは行き当たりばったりで島を訪問するが、現地で意外な出会いに恵まれる。

 

STAFF & CAST

監督:芳賀薫/出演:伊藤沙莉、染谷将太、シシド・カフカ、滝藤賢一、富田靖子、高畑淳子/2025年/日本/105分/製作・配給:コギトワークス/共同配給:S・D・P/©2025 映画「風のマジム」 ©原田マハ/講談社

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