転機となった「希望の党」ドキュメンタリー

――実際の報道の現場はいかがでしたか。

 それまでは文章で物事を考えてきましたが、テレビは映像でどう伝えるかがすべてです。その発想に切り替えるのが本当に難しかったですね。大きなターニングポイントは、記者になって2年目の2017年、「希望の党」をめぐる選挙のドキュメンタリー番組を制作したことです。企画から放送まで半月余りという無茶なスケジュールでしたが、取材したものをどうストーリーとして構成していくか、その手法を掴むことができました。

――SBSの問題に関心を持ったきっかけは?

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 記者として、いつか刑事司法の問題に取り組みたいと思っていました。そんな時、刑事弁護の世界で知られた秋田真志弁護士がSBSの問題を語ると聞き、会合に出席してこの問題を知りました。すぐにこれは自分が取り組むべきテーマだと確信したんです。当時は自分も乳児の育児中で他人事とは思えませんでしたしね。

©2025カンテレ

――長期取材が結実したこの映画では、メディアのあり方そのものが問われています。

 取材を始めた当初は、SBSを医学的に検証することが主題でした。しかし、取材の一番の壁は、当事者でした。相手は私たちが既に容疑者として実名で逮捕報道をした方々でした。私のSBS取材は、彼らとの対話を通じて、メディアのあり方と向き合わざるをえなくなっていきました。8年の取材を振り返った時、これが映画の主題の一つになるのは私にとって自然なことでした。

©2025カンテレ

うえだ・だいすけ 1978年、兵庫県生まれ。2009年関西テレビ入社、16年から報道局記者。

INTRODUCTION & STORY

関西テレビの社内弁護士から報道記者に転身した上田大輔氏が、記者としての1年目から取材を始めたのが「揺さぶられっ子症候群(Shaken Baby Syndrome=SBS)」問題だった。2010年代、赤ちゃんを揺さぶって虐待したと疑われ、親などが逮捕・起訴される事件が相次いでいたが、その多くは冤罪ではないかという疑いが持ち上がっていた。刑事弁護人と法学研究者たちによる「SBS検証プロジェクト」が立ち上がり、チームは無実を訴える被告と家族たちに寄り添い、事故や病気の可能性を徹底的に調べていく。虐待をなくす正義と冤罪をなくす正義が激しく衝突し合っていた。やがて、無罪判決が続出する前代未聞の事態が巻き起こっていく。
SBS事件の加害者とされた人や家族との対話を重ねた上田氏は、報じる側の暴力性を自覚しジレンマに苛まれながら、かれらの埋もれていた声を届け、司法とメディアのあり方を問う報道に挑む。そして、記者として何を信じるべきか、上田氏を最も揺さぶることになる人物と対峙することになる――。弁護士として、記者として追いかけた贖罪と覚悟のドキュメンタリー。

 

STAFF & CAST

監督:上田大輔/プロデューサー:宮田輝美/撮影:平田周次/編集:室山健司/音声:朴木佑果、赤木早織/音響効果:萩原隆之/整音:中嶋泰成/2025年/日本/129分/製作:関西テレビ放送/配給:東風/©2025カンテレ

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