ウクライナのゼレンスキー大統領の世界を相手にした「PR情報戦」は、一時期は多大な効果を得たものの、現在は低迷しているという。「情報戦」の背景について、ノンフィクション作家の高木徹氏が考察する。
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PR理論の中心にある二つの「三角形」
筆者は、著書『ドキュメント 戦争広告代理店』(講談社文庫)で、旧ユーゴスラビアにおけるボスニア紛争(1992-95)において、「戦場の銃弾より情報戦が優れた武器となる」現代の戦争の本質を取材して描いた。そこには「PR(パブリック・リレーションズ)情報戦」という欧米のプロのテクニックがあり、その民間企業の力を使うことで、軍事力においては劣勢だった国家や勢力が紛争に勝利することも可能になる。
「戦争広告代理店」のPR理論の中心には二つの「三角形」が存在する。一つ目は、世論操作の主要な3種類のキャラクターであり、「演者」と「演出者」そして「敵」の関係性で作戦が遂行される。
「演者」とは、雄弁に自国の悲劇を語り、優れた表現力や目を引く外見でメディアの寵児になる国家指導者や外相、スポークスマンなどだ。「演出者」はPRのプロで、カメラの前でどう話すかなどあらゆる表現のテクニックを伝授し、そのネットワークを駆使して「演者」をメディアに露出させる。そして、そこで発信するメッセージにおいて「敵」を設定し、「現代のヒトラーだ」などと悪魔化してその人物を攻撃するなど手練手管を用いて一般の人々の心に強い印象を与えていく。
そして二つ目の三角形が、アメリカの国際政策をどうやって動かすか、ワシントンDCにある三角形の理論だ。米政界においては、「ホワイトハウス」「議会」「メディア」がそれぞれに影響を及ぼしあってバランスが保たれている。だからそのうち一つを動かしたければほかの二つを動かせばよい。紛争に勝つには世界最強のアメリカの軍事力を動かすことがカギで、それを決めるのはホワイトハウスなので、メディアと議会を動かせばよい、ということになる。

