家庭の崩壊と貧困の末に、愛娘を死に追いやる“虐待母”へと変わってしまったのが、かつて社長令嬢として何不自由なく育った松井奈緒（当時34）。彼女はなぜ恋人の暴力を見過ごしたのか？ ついには「9歳の娘」を亡き者にしてしまった2人のその後とは……。2009年（平成21年）、関西地方で起きた事件のその後をお届け。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。（全3回の1回目／続きを読む）
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9歳少女が亡くなる「虐待殺人」はなぜ起きた？
松井奈緒（当時34）は裕福な会社社長の長女として生まれた。少女時代は豪邸に住み、何不自由ない生活だったが、父親は外で堂々と愛人を作り、それに耐え忍ぶ母親の姿を見て育った。
奈緒が20歳のとき、母親が心臓発作で亡くなった。それを機に奈緒は短大を中退し、家事を切り盛りするようになったが、食事を作っても帰ってこない父親や弟の態度に嫌気がさし、それもやめてしまった。
22歳のとき、あるパーティーで夫となる佐野晃（同38）と知り合った。
佐野は一見、遊び人風だったが、大らかな性格に惹かれ、奈緒は父親の会社で働きながら、土日になると佐野の家に遊びに行くようになった。年頃だった2人は周囲の祝福ムードに押され、1年後には結婚。23歳のときには長女を授かった。
佐野も奈緒の父親の会社で働くようになり、父親が会長に退くと奈緒の弟が社長になり、佐野は副社長のポストを与えられた。
24歳のときには双子の姉妹を授かった。その姉がのちに悲惨な虐待事件の被害者となる京子ちゃん（同9）である。
奈緒は専業主婦になるために先に退社したが、その2年後には佐野が「お前の父親とはそりが合わない」と言って退社してしまった。やることがなくなった2人は、佐野の両親に「実家の隣でお好み焼き屋を営んだらどうか」と提案され、心機一転、その近くでマンションを購入し、お好み焼き屋をオープンさせた。
だが、佐野は義父や義弟の目が届かなくなると、奈緒に仕事を押し付けて、パチンコ店で遊びまくるようになった。
結局、お好み焼き屋は1年半で破たん。蓄えもなくなり、奈緒は働かない夫に代わって、昼間はファミレス、夜はスナックでホステスとして働いた。
2人のすれ違いの生活の中で、徐々に夫婦仲も冷えていき、佐野は「生活費の分断」を提案。お気に入りの長女を「自分の担当」とし、双子の姉妹を「奈緒の担当」として、お互いのグループを干渉しないというルールを作った。
離婚を考えた奈緒は、実家の父親に相談したが、遠回しに佐野の母親を通じて「すぐに戻ってこられても困る」と拒否され、行き場を失った。
そのことでノイローゼ気味になっていたとき、たまたま出会ったのが古賀康則（同38）だった。
