「親切な男」だと思いきや…
古賀とは自宅近くの焼肉店で知り合った。古賀も自分の息子(同6)を連れて来ており、子分のような森本博光(同41)と一緒に飲んでいた。
子ども同士が交流を始めたことから、古賀と奈緒も話をすることになり、その場で「いつか一緒に動物園へ行こう」という約束を取り付けた。
「どうしたんや。元気ないやないか?」
古賀は聞き上手な男だった。奈緒から家庭内別居状態に陥っている状況を聞き出し、「そりゃとんでもない亭主や」と同情した。
「そんなに頑張らんでもええんや。アンタは頑張りすぎや。いつでも子どもたちと一緒に遊びに来たらええがな」
古賀の家に子ども連れで遊びに行くうち、奈緒と古賀は男女の関係になった。「将来は籍を入れよう」と口説かれ、佐野と結婚している身でありながら、1カ月後には古賀のマンションで同棲するようになった。
「子どもたちも巻き込んでいるんやから、もう後には引かれへんで。いつまでも前夫のことを引きずっていたらアカン。断ち切るんや」
古賀に促されて、2カ月後には離婚。「法的に再婚が認められる半年後になったら籍を入れよう」と署名入りの婚姻届を手渡され、奈緒は古賀との生活に夢中になった。
奈緒は古賀が話す境遇にも共感していた。幼い頃に両親に捨てられ、施設で育ち、「何のバックボーンも持たない自分がのし上がるには、ヤクザになるしかなかった」という作り話だ。
ついには娘に危害を加えるように…
古賀は実在する大手広域組織系列の「若頭」を名乗っていた。
「うちの組が今、手掛けているのは都市開発のプロジェクトや。20億円の経費がかかっている。そのために警察や他の組のヒットマンにも追われている。今はカムフラージュで自動車整備工場で働いているが、ここを乗り切ったら巨万の富が待っている」
そんなホラ話を信じていたのは奈緒だけではなかった。もともと派遣の仕事現場で知り合った森本も古賀のホラ話を信じ込み、「面が割れていない一般人のお前の方がいい」などと言われ、月50万円の約束でボディガードになった。「今は組から離れて活動しているから、組の金に手を出すことができない」という古賀のために、「若い衆におごる金を貸してくれ」「遠方の事務所へ行く旅費を貸してくれ」などと言われ、計約30万円も騙し取られていたのである。
「この男と一緒になれば、前夫はおろか、父親だって見返すことができる」
奈緒は古賀との結婚を夢見てメロメロになっていた。古賀が娘たちに手を上げても、「何で叱られるのか考えなさい」と言って同調した。
双子の妹の方はそれに耐えかねて、父親の家に戻って行ったが、姉の京子ちゃんは「お母さんと一緒にいたい」と言って耐えていた。
古賀が怒る理由はほんの些細なことだった。京子ちゃんが漢字のドリルをしなかったと言って食事抜きにしたり、古賀の息子の絵の感想を言わせたら気に入らなかったと言って、殴る蹴るの暴行を加えた。
さらに「うそをつく」という理由で、1日の食事はおにぎりとバナナと水だけに制限され、気に入らないことがあると「しつけ」と称して、真冬のベランダに何時間も放置した。
近所の人が虐待を疑い、警察を呼んだこともあったが、古賀と奈緒は「夫婦ゲンカです」と言ってごまかし、京子ちゃんの体のアザが見つかると困るからという理由で学校にも行かせなくなった。
事件前日、古賀が森本を呼び、外食へ出かけようとしたとき、京子ちゃんが自分の靴を履こうとしていると、「何しとんねん。お前が行けるわけないやろ!」と言って置き去りにした。
帰ってくると京子ちゃんが玄関で失禁していたため、古賀が怒り、ベランダに放り出した。子分の森本は「やり過ぎではないのか」と尋ねたが、古賀は「こいつはええねん」と言って、自分の行為を正当化していた。
