三菱の「事業の目的は国のため」

 長崎県五島市の沖合に日本初の浮体式洋上風力発電ファームを建設した戸田建設の今井雅則会長は言う。

「日本が国際社会に宣言している『2050年のカーボンニュートラル(二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」と、森林などによる「吸収量」を差し引きして、実質的にゼロにすること)』を実現する上で、洋上風力は欠かせない」

洋上風力発電からの撤退を発表する三菱商事の中西勝也社長 Ⓒ時事通信社

「足元のコスト計算では採算が取れなくても日本の一次エネルギーの半分をまかなうとして、2050年までに洋上風力で1000ギガワットを発電するなら、年間3000基の風車を量産することになる。ここまで生産量が増えればコストは劇的に下がり、今とは全く違う未来が見えてくる。問題はそこに辿り着くまで日本が本気で洋上風力を支えるかどうかだ」

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 同社は2013年に五島市沖に1基の実証機を設置し、その経験を踏まえて2026年1月から8基の浮体式洋上風力発電機で構成する発電所の操業を開始する予定だ。

 一方、8月に撤退を発表した三菱商事が中核をなす三菱財閥の創設者、岩崎彌太郎の甥で四代目総帥の岩崎小彌太が定めた「三菱三綱領」は、「所期奉公」「処事光明」「立業貿易」から成り、先頭の「所期奉公」について小彌太は「生産活動は国の最も重要な活動の一つである。その活動に携わっているわれわれは、国から極めて重要な任務を任されているとも言える。したがって、事業の究極の目的は国のためにするということ」と語っている。

 国家100年の計であるエネルギー政策において「切り札」と位置付けられた洋上風力発電。「国のため」を究極の目的とする三菱グループの筆頭格である三菱商事が、その任務を一旦請け負っておきながら、撤退するというのだから、ただ事ではない。武藤経産相が「信じられない」というのも無理はない。

※本記事の全文(約7500字)は月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(大西康之「『洋上風力発電撤退』三菱商事は創業理念を忘れたか」)。全文では、下記の内容を図表入りでお読みいただけます。
・中西社長は再エネ事業の立役者
・激変した経済環境
・中国の発電設備が使えない
・東芝の大失敗
・政府の本気が問われている

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