三菱商事が、千葉県沖と秋田県沖の3海域で進めていた洋上風力発電事業から撤退すると発表した。この発表には賛否が分かれたものの、武藤容治経済産業相は「非常に遺憾」とコメント。経産省がまとめた、2040年度を目途とした「第7次エネルギー基本計画」においては、「洋上風力」は「切り札」ともみなされている。洋上風力のメリットや三菱商事の撤退の背景について、経済ジャーナリスト・大西康之氏が切り込む。

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洋上風力の持つポテンシャル

 洋上風力がなぜ切り札なのか。それは、これまで再エネの主軸だった太陽光発電にさまざまな問題点が見えてきたからだ。

 国土の狭い日本では、日当たりのいい平地は住宅や田畑としてほぼ活用され尽くしており、メガソーラーは森林伐採や大規模な土地造成を伴うことが多い。専門家からは土砂災害や環境破壊のリスクを指摘する声も上がっている。

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ドイツRWE社の北海にある洋上風力発電所 Ⓒ時事通信社

 陸上風力も同様に用地の確保が難しく、さらに破損した風車で近隣住民が死亡するなどの事故が起きたり、風車が回るときの騒音が問題になったり、景観を損なったりと、地域との共生の難しさが指摘されている。

 洋上風力には、これら太陽光や陸上風力の弱点を乗り越えるポテンシャルがある。洋上に設置される風車の場合、土地造成の必要はなく、騒音や景観の問題もほぼない。漁業に与える影響も調査されてきたがむしろ、魚を助ける「魚礁になる」とポジティブな結果が出ている。

 ぐるりと海に囲まれた日本の領海も含めたEEZ(排他的経済水域)は世界6位の約447万平方キロメートルで、英国と欧州大陸の間で洋上風力のメッカとされる北海ほどではないが、平均すれば毎秒7メートルの風が吹いている。EEZの要所に洋上風力発電の風車を6万7000基建てれば1000ギガワットの発電が可能で、日本が必要とする一次エネルギーの半分以上をまかなえるという。

 机上の空論ではなく、実際に欧州では10年以上前からオランダや英国などで洋上風力発電所が積極的に建設されており、EU(欧州連合)全体の発電に占める風力の割合は約20%に達している。