支店長の役割も

 亀澤 現在だと、支店長など、現場担当者の上司が行っていることですね。例えば、「お客さんにこの話は聞いたかな?」などと言って、判断するのに足りていない情報を指摘する。すると、担当者は「あ、そうか!」と気づいて、お客様に追加でコミュニケーションを取りにいく、そんなかたちで進んでいます。

亀澤宏規氏は東京大学数学科の修士課程を修了している Ⓒ文藝春秋

 伊藤 この支店長の役割をAI社員ができるようになる。支店長以外にも、AI社員は指導社員や同僚など、いろんな役割ができます。

 亀澤 そうなれば、圧倒的な時間の節約になりますね。担当者はもっとお客様とのコミュニケーションに時間を割けるようになる。これまで部下に指示していた時間で、支店長もお客様のところに行けます。結果、お客様へのより緊密で高品質なサービス提供にも繋がります。

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 伊藤 「ロール」(役割)以外にもう一つ、LinkedIn(ビジネス特化型SNS)の共同創業者であるリード・ホフマンが言っていたキーワードがあります。それは「iteration(イタレーション)」です。直訳すると“反復”ですね。答えが出るまで試行を続けるという意味です。彼は、「イタレーション」が、AIを作る上でも使う上でも本質だと言うんです。

伊藤錬氏は外務省、メルカリなどを経てSakana AIを創業した Ⓒ文藝春秋

 AIを作るときには、仮説を立て実行し、検証してまた新たな仮説を作る。この反復の中でAIの能力を高めていきます。

 AIを使う時もイタレーションは重要です。AI社員に相談して出てきた回答を、担当者が考える材料にして新たな仮説を作り、結論に向かっていく。担当者はAI社員とともに走りながら考えていく。AIに人間が代替されるのではなく、あくまでAIによって人間を強化していきます。現在の技術でも人間の代替はまだ難しいですから。

 そして、AIによって人間側のスキルを強化するイタレーションのサイクルを作るには、組織自体がAI社員を前提とする形にならなければなりません。

※本記事の全文(9000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と、「文藝春秋」2025年11月号に掲載されています(亀澤宏規×伊藤錬「AIと働いてみて得意と不得意が見えてきた」)。

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