西川徹氏が2014年に創業したプリファードネットワークス(以下、PFN)は、AIをはじめとするコンピューターサイエンスを活かして、顧客の問題解決に取り組むベンチャー企業だ。数多の有力なAIベンチャーが現れる中、PFNの強みは「ハードとソフトの融合」にあるという。
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スパコンから石油化学プラントまで
当社で開発したスーパーコンピューター「MN-3」は、世界のスーパーコンピューターの電力効率の良さを競う「Green500」のランキングで、2020年から21年にかけて世界1位を3回獲得しました。この技術をもとにグリーン社会に貢献する国産AIインフラの提供を目指すため、この1月、ラピダス、さくらインターネットとの協業の基本合意を締結したところです。
一方で、「タレントスカウター」のようなソフトウェアも開発しています。今年2月に発表したばかりの新サービスですが、AIとの対話で求職者の実務スキル評価を行うものです。求職者には好きな時間にPCやスマホで、AIアバター(キャラクター)と対話してもらい、AIが内容や音声、表情などから多面的かつ客観的に求職者の実務スキルや適性を計測します。これにより面接官にとっては選考プロセスの効率化やミスマッチ回避などの効果が期待できますし、求職者にとっても利便性がもたらされます。
ハードとソフト、その両方の視点を持ち、それらを融合した製品を開発できるというのがPFNの最大の強みと言えます。
私がよく例に出すのはENEOSさまと組んで実現した、石油化学プラントの自動運転化です。
石油化学プラントは、複雑な化学反応のプロセスを制御する機械の集合体です。中でも、常圧蒸留装置と呼ばれる機械には、予測に用いるためのセンサーが930個もあり、それらを元に温度や圧力など24項目を制御する必要がありました。これらを、オペレーターは職人技で制御しています。膨大に並ぶそれぞれのパラメータを人間が監視しながら、経験知と勘を頼りに最適化していたのです。私たちにオファーされた課題は、こんな高度な判断の連続を自動化することでした。
本当に難しい課題でしたが、それでも取り組んだのは、自動化が喫緊の課題だったからです。熟練したオペレーターが減りつつありましたし、そもそも一つ間違えれば大事故につながるという操作を、人間が実行する心理的負担はとてつもなく重いものだったのです。