三菱UFJフィナンシャル・グループ社長の亀澤宏規氏と、 Sakana AI 共同創業者・COOの伊藤錬氏は、「融資AI」制作への協働をはじめ、ともに“AIネイティブ”の組織づくりを志している。その内実はどのようなものか。
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「AI社員」と働く
〈今年5月、Sakana AIとMUFGによるパートナーシップ提携がスタートし、MUFGはSakana AI共同創業者の伊藤錬COOを「AIアドバイザー」に招聘した。2023年に日本で創業したSakana AIは、その後1年以内に国内最速でユニコーン企業(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)になった注目のAIベンチャー。複数のAIを少しずつ組み合わせて、新たに性能の高いAIを生み出す「進化的モデルマージ」や、アイデア考案から論文執筆までの科学研究の全工程を自動化する「AIサイエンティスト」など、画期的な技術を生み出し続け、半導体大手のNVIDIAやNTTグループ、三メガバンクなどからの出資を集めている。
同社の最新の取り組みが、日本最大手のメガバンク・MUFGとの提携だった。AIによる融資の稟議書作成など業務の大幅な効率化につなげ、MUFGは3年で500億円だった予算枠を100億円増額し、より踏み込んだAIの活用法を探るという。両者の契約は3年超に及び、MUFGは最大で50億円規模を支払う。
今年3月期の連結純利益が1兆8629億円というグループ発足以来の最高益を更新したMUFGは、新進気鋭のAIベンチャーと組んで何を始めるつもりなのか。〉
伊藤 今、開発している「融資AI」という発想の出発点は「今のAIにできないことは何か」でした。今の世の中に普及しているAIは、ChatGPTのように何にでも使えるAIです。
ただ、何にでも使えるだけあって特定用途には弱い。ChatGPTに銀行のデータを大量に入れても、融資の判断はできません。でも、これはAIの限界というよりは、あくまで大規模な公開データで作った汎用目的のAIの限界です。そこで、融資AIは融資という業務に特化したモデルとして構築するとともに、融資業務に関わる銀行内のあらゆる暗黙知を吸い上げる工夫をしています。
加えて、融資AIはAIエージェントでもあります。AIエージェントは、特定の目的を達成するために、人と同じように、自律的に計画を立てて作業を実行します。いわば、「AI社員」です。
融資専門家のAI社員に融資担当者が「1億円を借りたいと言っているこのお客さんに融資はできるのか」と相談すると、過去の稟議書に照らし合わせたり、企業業績をシミュレーションするなどして、判断材料を示してくれるようになります。

