「財務省は恣意的」と日医会長

 財務省の機動的調査で、診療所の高い収益率や内部留保が初めて明らかになり、日医執行部は「診療所を狙い撃ちにした」と受け止めた。松本は会見で、怒りを隠さずに反論した。

「(財務省の機動的調査の対象になった)この3年間は、まさにコロナ禍の変動が顕著であり、コロナ特例の上振れ分が含まれています。そもそもコロナ禍で、一番(収益の)落ち込みが激しかった2020年度をベースに比較すること自体、ミスリードと言わざるを得ません。儲かっているという印象を与える恣意的なものと言わざるを得ません」

 その上で、税理士・公認会計士のネットワークである「TKC全国会」が医療機関の決算データを集計した「TKC医業経営指標」をもとに、日医が4400~4800の診療所の「医業利益率」を独自に分析したところ、20年からの3年間の平均は5.0%で、新型コロナ流行前3年間(17~19年度)の平均4.6%と、ほぼ同水準であると説明した。医業利益率とは、経常利益率ではなく、補助金などの営業外利益を除いた医業利益のみの売り上げに対する割合のことをいう。

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日医の役員就任披露パーティ(岸田元首相の左側が松本会長)

 松本は「さらにコロナ特例などのコロナ対応分を除くと、(20年からの3年度の平均は)3.3%程度と、むしろコロナ流行前よりも若干悪化している可能性があります」と述べ、「診療所の経営は好調」とする財務省の分析を否定した。

 ただ、TKC指標に基づく日医の独自分析で、医業利益率ではなく診療所の経常利益率で見ると、20年度が3.8%、21年度8.1%、22年度9.8%となり、約1万8000の診療所を対象とした財務省の機動的調査の数値を全部の年度で上回っていた。

 政府関係者は「診療所の経常利益率が高いとする財務省のデータが、日医の独自分析で裏付けられたようなものだ」と苦笑しながら、「日医がどうして診療所の経営状況を医業利益率で説明したのか理解できない。補助金などの医業外利益も院長や医療従事者の給与になっているのだから、医業外利益も含めた経常利益率で説明すべきだ」として、こう続けた。

「日医は収益が落ち込んだ20年度をベースに経常利益率を比較することが恣意的だと言っているが、財務省は医療法人の決算資料が閲覧可能な20年度から3年分のデータで、毎年の診療所の足下の経常利益率が高いと言っているに過ぎない。すごく儲かって、溜まり(利益剰余金)も1億2400万円あるということだ。中小企業や病院の平均よりも経常利益率が高く、しかもその財源は保険料や税金で、それが過剰に診療所に溜まる構造で、『本当にそれでいいんですか』ということだ。その意味で、『これだけ儲かってもいいんです』という日医の主張は理解に苦しむ。医療は公費で、みんなで集めたお金でやっている以上、そこはちゃんと見ていかないといけない」

(文中一部敬称略)

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