2023年12月1日、刑務所や少年院を通じて犯罪被害者、遺族の思いを担当刑務官、加害者に伝えられる「心情等伝達制度」が始まった。希望すれば加害者からの返答を書面で受け取ることもできる同制度。実際に利用した犯罪被害者の切実な声とは――。

 ここでは、犯罪被害当事者、被害者遺族を長年にわたって取材する藤井誠二氏による『「殺された側」から「殺した側」へ、こころを伝えるということ』(光文社新書)の一部を抜粋。21歳の娘を少年院出所直後の15歳少年に殺された遺族の体験を紹介する。(全4回の1回目/続きを読む

写真はイメージ ©AFLO

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少年院を出たばかりの15歳の少年に

 2024年8月、福岡市内のある法律事務所。会議室のテーブルを挟んで、筆者の目の前に固まったように座る、小柄な女性。マスクをしているが、視線は前方の一点を凝視したままだ。

 山本直子(仮名)、年齢は50代。彼女は4年前、当時21歳の娘を、少年院を出たばかりの当時15歳の少年に殺された。加害者は、福岡市内のショッピングモール内でたまたま出くわした被害者に、包丁を持って襲いかかり、首などに突き立てた。殺人罪などで懲役10年以上15年以下の不定期刑が確定し、服役中である。私見だが、あまりにも短い刑期だ。

 テーブルの上に置かれた数枚の用紙。見出しに「心情等伝達結果通知書」とある。日付は令和6(2024)年7月19日。書類に目を通すと愕然とした。「いったいなんだ、これは。加害者は何を言っているんだ……」と、私は心の中でつぶやいた。

 山本は心情等伝達制度を利用して、加害者である元少年の返答を受け取ったのだった。彼女は録取の際に、加害者への激しい怒りを刑務官に託していた。

「娘の写真をたくさん持っていったので、その写真を見せながら、うちの娘がどういう子だったのかとか、そういう話から始めました。そのあとに加害者の少年が憎いという話をしていったんですが、具体的にどういう話をしたのか、覚えていません。娘には夢がいっぱいあったんだとか、そういうことをいろいろと話して、それをすべて壊したことについて、加害者はどう考えているのか、裁判後の心境の変化はあるのか等を聞いた(刑務官に加害者への心や質問を伝えた)と記憶しています」

 被害者担当刑務官にはのべ数時間、話し続けた。加害者は遠方の刑務所に収監されているので、被害者担当刑務官以外にも数人がプリンターまで持って訪れてきて、山本の言葉を丁寧に聴き取り、何度も入力と出力を繰り返した。

 場所は山本の希望もあり、例外的に弁護士事務所の一室を提供するかたちとなった。出来上がった「心情等伝達書」には多くの山本のこころが盛り込まれた。山本が加害者にぶつけたい、ありったけの言葉が並んだ。聴取には山本の代理人弁護士が立ち会った。