「家族の顔が認識できない」

「まだらボケというか、時々だけど記憶が抜けちゃうんです。自分の名前や住所が分からなくなったり、生年月日や年齢があやふやになったりすることがあるんです」

 理解力も衰え、気になっていることを何度も繰り返し問うてくる。

「この3か月ほどで認知症が進んだ感じです。わたしを含めて家族の顔が認識できないことがある」

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 人物誤認の症状は顕著で、息子の篠原さんを自分の弟と間違えたり、孫たちをヘルパーさん、看護師さんと呼んだりすることがある。

「自宅にいるのに家に帰りたいとわけの分からないことを口走ったりすることもあります」

 特に困るのが夜中の不穏行動。真夜中に突然大声をあげて騒ぐことがある。

「落ち着かせてどうしたのか尋ねたら、知らない男がいるって……。幻覚とか妄想みたいなものなんでしょうね」

「母親は病気なんだ」

 この他にも、食事をしたことを忘れて再三食べ物を要求してきたり、既に亡くなっている親やお兄さんが来ると言ったり、というようなこともあるそうだ。

「わたしも母親は病気なんだということは理解している。だけどねえ」

 現在の医学では認知症を治すことは不可能で、進行を遅らせるのが精一杯。それでも徐々に悪くなっていく。しかし、それに付き合わされる家族の負担は大きい。

 注意しても教えても元の状態に回復することはないのだから余計に辛い。

 介護保険の区分は要介護3。独り暮らしが不可能で、食事やトイレは第三者の介助が必要なレベルだ。

「今のところ食事は自分でできている。ただ飲み込むのが上手くできないこともあって、よくむせたりつかえたりしています。トイレも歩行器でヨタヨタ歩きながら行っている。手伝おうとすると凄く嫌がるんです。だから転ばないよう見ているけど」

 体力も筋力も落ちていくわけだから1、2年で介助が必要になると覚悟している。