東京都板橋区に暮らす篠原保夫さん(53)は、電子機器メーカーで管理職を務める傍ら、高齢の母(82)の介護に追われている。軽い脳梗塞と認知症の症状が出始めた母の生活を支援サービスや妻、大学生の息子と共に支える日々。急な体調変化や夜間の徘徊、幻覚など介護の負担は増す一方で、仕事と家庭の板挟みに直面する50代の現実とは?
増田明利氏によるルポルタージュ『今日、50歳になった―悩み多き13人の中年たち、人生について本音を語る』(彩図社)から一部を抜粋してお届け。なお、登場人物のプライバシー保護のため、氏名は仮名としている。(全2回の1回目/続きを読む)
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認知症になってしまった82歳の母親
予定外の訪問診療を頼んだため、篠原さんが出社できたのは午後勤務開始の直前。
当日申請だったが半日休暇を認められたので欠勤扱いは避けられた。これだけは助かった。
篠原さんは電子機器メーカー勤務で、経理部の管理職。この日の訪問診療というのは、同居している高齢のお母さんが夜半から熱を出したため、2週間ごとに来てくれている在宅診療の先生に、急遽予定外の往診をお願いしたからだ。
「朝8時ちょうどに電話してお願いしたのですが、来てもらえたのは10時半だった」
診察してもらったところインフルエンザではなく単なる感冒。熱が出たが大事ないということだった。
「その場でいつもの調剤薬局にスマホで処方箋を送ってもらったけど、薬を届けられるのは正午過ぎということでした」
これでは休まなければならないので、たまに利用している生活支援サービス会社に頼んでヘルパーさんに来てもらい、薬の受け取りと料金の支払い、昼食後の服用だけ面倒見てもらうことにし、やっと出勤してきたという次第。
「生活支援サービス会社は介護保険外なんです。料金は1時間3000円必要。今日は来てもらってから帰るまで1時間半ぐらいかかるでしょうから、明後日頃に4500円払ってくれと請求書が来る」
困っているから利用しているが、安くはないと思う。それでも利用しなければならないのが痛いところだ。
急に熱を出したお母さんは82歳。約3年前に軽い脳梗塞を発症。命に別状はなかったが左半身の動作が悪くなり、物忘れも多くなった。
機能回復のリハビリをやったがほとんど効果がなく、自分の足で歩いて移動するのは困難で、室内でも歩行補助器が必要。1年前頃から軽い認知症の症状も表れてきた。
