「(母の)顔つきがおかしく、能面のような感じなんです」
母の認知症が悪化し、家族の顔もわからず夜中に叫ぶ日々。弟の無関心、妻の高齢父の介護、限られた施設の順番待ち……。53歳男性を襲う“逃げ場のない介護地獄”の現実を、増田明利氏によるルポルタージュ『今日、50歳になった―悩み多き13人の中年たち、人生について本音を語る』(彩図社)から一部を抜粋してお届け。なお、登場人物のプライバシー保護のため、氏名は仮名としている。(全2回の2回目/最初から読む)
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迫りくる「ダブル介護」の恐怖…
「妻のお父さんが家で転倒して、腰の骨と大腿骨を折る大怪我を負いまして。寝たきりというほどではないけど、家事的なことやリハビリの付き添いなどの必要が生じたんです。5年前にお母さんが亡くなってから独り暮らしをしていまして、たまに妻と妻の兄嫁さんが様子を見に行っていたけど、お元気だったのに」
今はヘルパーさんが週に2回来て掃除・洗濯などをしてくれ、炊事・食料品の買い出し・通院付き添いは妻と兄嫁さんが交代で受け持っているが、先のことは分からない。
「頭の方はしっかりしているのですが糖尿病持ちだし、来年には80歳になるから認知症にならない保証はない。妻もそれを心配しています」
協力してくれている息子も来年は社会人になるので、今のように頼むのは無理。
「ダブル介護になる危険性が高い……。わたしも妻も高齢の親がいるからこういう危険があることを考えておくべきだったな」
奥さんにこれ以上の負担をかけるわけにはいかないし、篠原さんも頻繁に早退したり半日休暇を取ったりするのも難しい。
「弟がいるのですが、こいつは薄情であてにならない」
