金銭的な負担は一切しないし、たまに来ても食事の世話だけやってそそくさと帰っていく。仕方なくやっているという感じが見え見えだという。
施設に入れるのも難しい理由
お母さんに施設に入ってもらうという手もあるが、それも簡単なことではない。
母親の国民年金と遺族年金だけでは、有料老人ホームに入居するのは経済的に厳しい。サービス付き高齢者向け住宅も、重度の介護状態になったら住み続けられないというデメリットがある。
「そこで月々の基本料金が9~13万円という公設の特別養護老人ホームを選択したのですが、手続きは煩雑だし何百人も順番待ちしていて、いつ順番が回ってくるか見えないんです」
申し込み手続きは区役所に申請し、区が派遣したケアマネージャーとの面接、区の最終審査などをクリアしなければならなかった。
「ケアマネージャーとの面接の前に、食事やトイレは一人でできないって言おうねと教えたのですが、年寄りは人前では少しでもよく見せたいのか、すごく元気なふりをするんです。普段は家の中でも歩行器を使っているのに壁伝いに歩いてトイレに行ったり、冷蔵庫から麦茶を出して『どうぞ』とやったりでした」
ケアマネージャーには「お元気じゃないですか」と言われたが、帰ったら介護ベッドに倒れ込む始末だった。
「入居申請は受理してもらえたのですが、先に500人近くも待機していると教えられてびっくりしました。母の順番が来るには7、8年かかるかもしれません。既に入居している人や先の順番の人たちが死んでくれるのを待っているみたいで嫌だなあ」
20代、30代の頃は高齢者福祉に税金を使うのは生産的じゃないと思っていたが、自分の親が支援や介護を必要とするようになって、浅はかさに気づかされた。
「母の世話や通院の付き添いのために有給休暇は積み増ししてあります。自分の体調が悪く、本当なら休暇を申請して休みたいと思うこともあるけど、我慢するしかない」
大手企業は介護者向けの短時間勤務制度を設けたり社員の相談窓口を設置したりしていることがあるが、篠原さんが勤務する会社にはこういった支援制度はない。
