最近ではもっとも緊張したシーンだった
──共演シーンの多かった栁俊太郎さん、霧島れいかさんとは、どのような空気感の中でお芝居をされたのですか。
蒔田 栁さんは包容力がある優しい方で、出会った頃の朔そのもののようでした。最初に撮影したシーンが、ふたりでワインを飲みながら踊るシーンだったのですが、映像としても印象的な場面で、よりふたりの世界観に没入していけたと思います。現場では栁さんとご一緒することが圧倒的に多かったのですが、演技の話よりも、他愛もない話をしていた時間が多かったように思います。自然体で演技がしやすい雰囲気をつくってくださいました。
霧島さんとご一緒する時は、毎回緊張の連続でした。とくに最後、母の雫(しずく)と雨音が、“エデン”という人間を完全にコントロールする理想の実験都市で対峙するシーンは、ここ最近で一番緊張したくらいです。
──雨音は朔、水内、水人(みずと)という3人の男性と、それぞれ異なる形で関わります。相手役によって感情の動き方が異なる雨音を演じるのも、難しかったのではないでしょうか。
蒔田 そうですね。朔さんとのシーンは栁さんに委ねる気持ちでしたが、同級生だった水内くんとはフラットな関係性なので、もっと気楽に演じました。3人の男性との関係性は、それぞれ変化をつけたかったので、意識的に演じ分けたつもりです。
難しかったのは、水人とのシーンです。現実では考えられない設定なので、感情が追いつかず、役作りにはかなり苦労しました。
美しいが、無機質で人間味のない世界
──ラストのシーンも、説明しがたい複雑な感情を、表情のみで表すという難しいリクエストが監督からあったそうですね。
蒔田 最初の打ち合わせの時はそのようなお話がありましたが、撮影当日は特に何も言われず、私のやりやすいようにやらせてくださいました。ほぼワンカットで撮影したので、「こういうふうに演じよう」と気負わずに、相手役との空気感に任せて、雨音の感情のままに演じられたと思います。
──エデンに移住してからは、夫・朔との関係性も少しずつ変わっていきます。心の距離感を演技でどう表現されましたか。
蒔田 雨音と朔のエデン移住後は、ますます栁さんとご一緒するシーンが増えたので、お互いの演技を感じながら合わせていく、という作業をさらに深く重ねていきました。
真っ白に漂白された清潔なエデンは、映像としては非常に美しい場所ですが、無機質で人間味がありません。「こうでなくてはいけない」と明確に決められた世界で、「自分は間違っているかもしれない」という想いを根底に抱えていた雨音にとっては、苦しく生きづらい場所だったのではないかと想像しました。雨音は感情を露わにするタイプではないので、微細な感情のグラデーションを表現できるよう意識しました。

