──本作では“普通”や“正しさ”が問われます。蒔田さんは「正常な世界」とは、どのような世界だと思われますか。

©2025「消滅世界」製作委員会

蒔田 難しい質問ですね。でも、自分がやりたいこと、好きなことを自分の意志で決められるのが「正常な世界」ではないかと思います。

 今は個人の自由が尊重されている時代で、「○○だから、こうでなくてはいけない」という価値観に縛られることは、だいぶ減ってきたように感じます。それでも、みんなが好き勝手にしていいわけではありません。私は子役から芸能界にいるので、大人に囲まれて「大人はこれが普通だよ」と言われることも多くありましたが、常識や礼儀など守るべきものは守りつつ、自分の意志を通せる世界が、正しく美しい世界なのではないかと思っています。

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あらためて感じた家族や恋人の大切さ

──本作に出演されて、あらためて「夫婦」や「家族」については、どのように思われましたか。

蒔田 家族や恋人というのは、当たり前に存在するものだと思っていましたが、それがなくなる世界を実際に感じてみて、いかに大切なものだったかがわかりました。

──雨音が恋するアニメの主人公・ラピスは、世界に色を取り戻そうと格闘する少年です。雨音は真っ白に漂白された場所を理想としながら、実は色を切望していたのでしょうか。

蒔田彩珠さん ©佐藤亘(文藝春秋)

蒔田 雨音が生きていた世界は「色」をなくそうとしていましたが、雨音はそれに抗っていたのかもしれません。言われてみれば、エデンに移住してからは、雨音自身が気づいていないそんな感情が根底にあったように感じます。

 もし私がエデンに行ったら、私は真っ先に「赤」を取り戻します。照れて耳が、嬉しくて頬が、気持ちが高ぶって顔が赤らむなど、赤は人間の表情や感情に直結しているので、まず赤を取り戻したいなと思います。

 この作品を観た方がどういう気持ちで受け取るのか、楽しみです。

小蔵昌子=スタイリング
辻村友貴恵=ヘアメイク

©2025「消滅世界」製作委員会

『消滅世界』

監督・脚本:川村誠
原作:村田沙耶香『消滅世界』(河出文庫)
出演:蒔田彩珠、栁俊太郎、恒松祐里、結木滉星、富田健太郎、清水尚弥、松浦りょう、岩田奏、落井実結子、山中崇、眞島秀和、霧島れいか
配給:NAKACHIKA PICTURES
©2025「消滅世界」製作委員会
11月28日(金)新宿シネマカリテ他全国公開

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