師匠の芸は「ぽかぽかする」

 沢木 そういう小さいけれど大きな原体験があるんですね。これまで伯山さんの動画を観ていると、シャープでメリハリのきいた話し方をする、まさに講談のために生まれたような方だと思っていた。でも、今日お会いしてみたら「落語家にもなれただろうな」と思えるような柔らかさもある。自分でもそう思いません?

最新作『暦のしずく』(朝日新聞出版)を上梓した沢木氏 Ⓒ文藝春秋

 伯山 落語には講釈発祥の演目も多くて、同じ演目をやることも多いんですよ。なので分かりますが、上手いか下手かは別として出来はしたでしょうけど、逆に言えば、落語家さんも講談はできる。結局のところ、落語をやることに僕自身そこまで魅力を感じなかった。講談師になることが夢だったんですね。仮に落語家に弟子入りするなら談志師匠だったんですが、私が志願する頃には、すでにご病気もされていて。

 沢木 弟子入りできなかった。

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 伯山 そんな時、現在の師匠である、神田松鯉(しょうり)の講談を聞いていて感動したんですよ。ぽかぽかする芸なんです。立川談志の良いときの芸は、若者が叩きつけられ震え上がるような芸。帰り道に「あぁ」と肩を落としてしまうくらいの芸をする。それが、松鯉の芸は温泉みたいで、「毎日一緒にいたい」と思ってしまった。それでいて極悪人の話をする時の震えるような凄さ。今、師匠は83歳ですが、いまだに圧倒的な講談師です。

2人は初顔合わせ Ⓒ文藝春秋

 沢木 客席で聞いていても、それが分かったんですね。

 伯山 分かりました。「富士山は遠くで見ていた方がいい」という言葉がありますよね。近づくとゴミが結構あるという。でも、松鯉は講談に出て来る人格者のような良い人そのまま。意識的にリンクさせているのかもしれないですけど(笑)。ずっといい距離感で、憧れ続けていられる存在です。

 沢木 ということは、その選択は大正解だったわけだ。

※本記事の全文(約12000字)は、「文藝春秋」12月号と、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(沢木耕太郎×神田伯山「自分の地図は自分で作ろう」)。 全文では、下記の内容をお読みいただけます。
・旅に教科書はない、自身で作るんだ
・講談はノンフィクションか
・「大石主税の初夜」

出典元

文藝春秋

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