「本命・髙瀬、対抗で大澤」

 現在は二人ともMUFG代表執行役専務と銀行の代表取締役専務を兼ねるが、貸金庫事件が発生する1年前までは、「本命・髙瀬、対抗で大澤」(同行関係者)という見方が大勢を占めていた。

髙瀬英明氏 MUFGバンク(ヨーロッパ)のHPより

 東京都出身の髙瀬氏は、一橋大学経済学部出身。「20代で日銀調査局に出向していた時は、現日銀理事の神山一成氏(1990年、日銀)と机を並べ、共に終電まで働いていた。日銀法改正に取り組み、今も交友関係は続いている」(日銀関係者)。グループCSOとして、2024年3月期から始まった中期経営計画の取りまとめを担当。前期の中期経営計画から営業利益を5000億円以上、上積みする計画を策定。「丁寧に部下の話に耳を傾ける一方、泥臭く会社にコミットすることも厭わない」(関係者)と評価する声が聞かれる。

 今年10月には、国立競技場の呼称を「MUFGスタジアム」と変更することを発表した記者会見にも出席。5年間で100億円規模を投じてネーミングライツ(命名権)を取得したとされ、髙瀬氏は「スポーツ領域にとどまらず、地方創生や文化継承の発信基地にしたい」と意欲を語った。

ADVERTISEMENT

大澤正和氏 三菱UFJフィナンシャル・グループのHPより

 一方で、開成高校から東大法学部を経て入行した大澤氏。デジタル部門と海外部門に精通し、2015年にタイのバンコク支店を同国のアユタヤ銀行と統合した際にはプロジェクト推進室長として実現に奔走。2020年にデジタル企画部長兼CDTO(Chief Digital Transformation Officer)に就任すると、シンガポールの配車大手グラブに対する7億ドル超の出資を取りまとめるなど、デジタル戦略を引っ張ってきた。現在は、グループが成長領域として位置付けるアジア地域の責任者を務める。「天才肌で、海外経験もあり英語も堪能」(関係者)というのが周囲の大澤評だ。

 ではなぜ「本命・髙瀬、対抗・大澤」の構図が崩れつつあるのか。その背景には、亀澤社長の意向があると指摘されている。

「亀澤氏は理系的で、今年6月に開始した総合金融サービス『エムット』に心血を注ぐなど、デジタル部門で新しい取り組みを推進することに意欲的。自らが副社長時代に担当したグラブへの出資をまとめるなど、デジタル部門に精通した大澤氏を買っており、目下“推し活”している」(同前)とされる。

この続きでは、頭取候補の“ダークホース”が明かされています〉

※本記事の全文(約6900字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(森岡英樹「三菱UFJ銀行の頭取レースが“混戦”になりつつあるワケ」)。全文では下記の内容をお読みいただけます。
・人事に影響与えた貸金庫窃盗事件
・影を落とした「大蔵省内の近親憎悪」
・ダークホースは?

次のページ 写真ページはこちら