1ページ目から読む
2/4ページ目

真壁さんが理不尽な上下関係をなくした

博士 プロレスラーの先輩・後輩ってどうですか? 昔のたけし軍団は上下関係がほんと厳しくて、仕事、雑用、練習しながら、理不尽に殴られ蹴られして、そのストレスを舞台にぶつけるわけですよ。舞台に上がる芸人にプロレスファンが多いのは、この部分を共有しているからだと思うのよ。上司を殴ったり、ボロカスに笑いものにするという表現ができる職業ってレスラーと芸人ぐらいだけなんじゃないかな。

ユリオカ 棚橋選手も先輩の理不尽さにちょっとムカついたりとかあるんですか?

棚橋 ないです。昔はそういう上下関係もあったかもしれないですけど、真壁(刀義)さん以降はなくなったという感じですかね。上から理不尽なことをされても、真壁さんがそれを受け止めて歴史を変えたと。だから偉いのは真壁さんです。

ADVERTISEMENT

博士 後輩を「かわいがる」っていう意味では、オレも玉袋(筋太郎)もほぼないね。自分らがものすごいイヤな思いしたし、それにオレらは漫才で早めに上にいけたし。

若手時代、こっそり穿いた赤タイツ

ユリオカ 棚橋選手も今から考えたらわりと早くチャンスをもらってますよね。これはチャンスかなと思った最初は、いつごろですか?

棚橋 デビューして半年ぐらいで骨折して、そこから半年後の復帰戦でタイツを赤に変えたんですよ。赤いタイツを会場まで隠し持っていって、試合直前にこそっと穿いて強引に。ヤングライオン(※新日の若手選手の通称)は2年ぐらい経験を積んで、海外に行って帰ってくるまでずっと黒タイツなので。ふつうならたぶん怒られます。

棚橋選手のツイッターは@tanahashi1_100 ©文藝春秋

博士 キングオブスポーツであり、ゴッチ、猪木と流れている新日本プロレスのストロングスタイルの象徴が黒パンツですからね。

棚橋 でも、猪木さんに「ストロングスタイルってなんですか?」って聞いたら、「知らねえよ」って言われましたし、いまだにストロングスタイルってなんだろうって考えてますけどね。

博士 プロレスが文化的アイコンとして認識されたのは、村松友視さんの『私、プロレスの味方です』という80年代のベストセラーとターザン山本の登場からですよね。活字プロレスとして解釈が広がっていくという、あれはいわば運動だよね。そこに乗っかりながら独り歩きしたのが過激なプロレスと、ストロングスタイル。

ユリオカ 中邑真輔さんあたりは、ストロングスタイルをさらに自分の中で消化しているというか。

棚橋選手がいま戦ってみたい選手とは?

棚橋 中邑とストロングスタイルっていうイメージが、うまく重なったんじゃないですか。新日本マットで活躍した人が、WWEの上位で活躍しているのはうれしく思いますよ。この間、台湾で会ったんですけど、充実した戦いができているという自信に満ちあふれてました。

博士 アメリカはマーケットも大きいし、プロレスラーひとりひとりがいわば一企業家なところもあるじゃない。

棚橋 クリス・ジェリコさんは、ビンス・マクマホン(WWEのCEO)に直接電話できる数少ないレスラーのうちのひとりで、ある程度の個人活動はゆだねられているらしいですよ。

ユリオカ 棚橋対ジェリコ戦は、一番の夢のカードと言われてますけど。

棚橋 戦ってみたいですね。ジェリコ選手って常に何万人クラスの会場のキャリアがあるから、東京ドームクラスでは全然物おじしていなかった。ドームは歓声が遅れてくるので、レスラーもちょっと焦るんですけど、ジェリコはファンの反応があるまで待っていられるんですよ。あれはキャリアがなせるワザですね。